田坂広志「知的プロフェッショナルへの戦略」講談社

公開日: : 書評(書籍)

この本は表面的には読みやすいのだが、実は読みにくい。話し言葉で書かれており、おそらく本人が語ったことを活字に落としたのではないか、不適切な読点やカギ括弧がかなり多いのには辟易する。同じことを不必要なほど何度も言い換えているようなところがある。かなり余白のある書き方をしており、内容は実際のページ数ほどはない。内容面では、問題整理と主張は小綺麗だが、それの立証が少ないのではないかと思わせる
サブタイトルにもあるように、これはビジネスマン向けの本。雇われて働く人でない場合にはあまり参考にならず、値段ほどの価値はないかもしれない

p49.「知的職業」の多くが、実は、単なる「知識の伝達と流通」で仕事をしていたのです。そして、こうした、単なる「知識の伝達と流通」によって仕事をしてきた職業は、ネット革命によって、その「知識」が直接的にエンド・ユーザーに伝達されたり、社会全体で共有された瞬間に、その存在意義を失ってしまう職業なのです。このことは、決して、大学教授や、シンクタンカー、コンサルタント、広告代理店業者、編集者といった職業だけの問題ではありません。例えば、「教育研修」と称して単に専門知識の伝達をしているだけの研修部、「市場調査」と称して単に既存情報の整理をしているだけの調査部、「顧客提案」と称して単に専門書の受け売りをしているだけの営業部、「企画立案」と称して単にコンサルティング会社の企画案を修正して使っているだけの企画部など、ビジネスマンの世界にも、何ら新しい「知識創造」を行うことなく、単なる「知識伝達」や「知識流通」を行っている人々も決して少なくないのです
p69.これは、昔から「マタイ効果」と呼ばれているものでもあります。「横並び一線」のような状態から、何かの弾みで一人の人材が頭を出すと、その人材に「多くの仕事」「優れた評価」「新しい機会」が集中することによって、その人材だけが、「横並び一線」の集団から急速に抜け出していくという現象です。このように、「仕事は忙しい奴に頼め」という言葉は、これからの知識資本主義の時代を象徴する言葉なのです
p83.これまでの企業においては、どれほど優秀な人材でも、一人で関与できるプロジェクトの数は限られていました。その限界を作っていたのは、やはり、「会議」という制約でした。実際の「会議」に出席しなければならないという制約は、その会議の待機時間や往復の移動時間などの「デッドタイム」(生産に寄与しない無駄な時間)を膨大に生み出してしまうからです
p94.複雑系の経済学や経営学の研究によれば、知識資本主義の市場において成功している企業や人材というものは、意識する、意識しないにかかわらず、この「収穫逓増」の発想に立った戦略を展開しているのです。すなわち、これらの企業や人材は、経営戦略やキャリア戦略を選ぶとき、その戦略によって、自社や自分の強みがさらに強化され、市場や企業での優位がさらに高まり、その勢いがさらに加速されるような選択肢を選んでいるのです
p98.ビジネスマンが働くことによって得られる「リターン」には、このような「マネー・リターン」(金銭報酬)のほかに目に見えない4つのリターンがあるのです。①ナレッジ・リターン(知識報酬)②リレーション・リターン(関係報酬)③ブランド・リターン(評判報酬)④グロース・リターン(成長報酬)
p112.これからの時代には、「波乗り」の戦略志向を持てばよい。経済や景気の上下、市場や産業の衰退といった市場環境の変化の波や、企業の吸収や合併、買収や売却、企業や倒産といった企業環境の変化の波を乗りこなしながら、自分の目指すキャリアの方向感覚を失うことなく、しかし、具体的なキャリア戦略は柔軟に修正しながら、前に向かって進んでいくという思考のスタイルだ
p116.昔から職人の世界では「蓄えをするならば、腕に蓄えをせよ」という言葉が語られてきた。これは「知的プロフェッショナル」という「知の職人」の世界においても同じです
p128.いかなる「努力」も「具体的」にどのような「工夫」をしたかというかたちで「客観的に」に語らえなければ、確かめようがない
p130.街頭での顧客との待ち合わせでは、「そうだ、この機会に、最近の若者たちのファッションを観察してみよう」と考えて時間を過ごすならば、その「待ち時間」は、極めて有意義な時間に変わります
p131.これからの知識社会において活躍するためには、書物や学校で学ぶことのできる「ナレッジ」(専門知識)ではなく、スキルやセンス、テクニックやノウハウ、さらには直感力や洞察力といった「ディープ・ナレッジ」(深層知識)をこそ身につけなければならない
p134.「時間」という資産は、不思議なことに、会社に売り渡しながら、同時に、自分のために投資することができるのです
p140.「ナレッジ」「リレーション」「ブランド」「グロース」という4つのリターンにおいては、前者ほど、「即効性」が高く、後者ほど「持続性」が高いのです
p197.知的プロフェッショナルの世界は、「ギブ・アンド・ギブン」の世界。なぜか自然に相手から「与えられる」のです

20080913060000

google adsense

関連記事

no image

ダイヤモンド社編訳「世界で最も偉大な経営者」ダイヤモンド社

これを読むと、偉大な経営者は時代の波にうまく乗った者ということができるのではないかと思う。そうでない

記事を読む

no image

田坂広志「深き思索 静かな気づき 『仕事の思想』を高める25の物語」PHP研究所

じっくり読んでも30分くらいで読み終わる本。価格も本体1,100円と安い。しかし、内容はそれらを超え

記事を読む

no image

本田直之「面倒くさがりやのあなたがうまくいく55の法則」大和書房

後行する大きな面倒くさいことを避けるために、先行して小さな面倒くささを積極的に引き受ける。それがメイ

記事を読む

no image

橘木俊詔・森剛志「日本のお金持ち研究」日本経済新聞社

著者が日本のお金持ちにアンケートを実施し、その結果をまとめて分析を加えたもの。日本の仕組みについて多

記事を読む

no image

佐藤富雄「コロリ力」経済界

面白い内容でスラスラと読み進められる。たまたま温泉に行っていたときに読んでいた本。そういう読んだとき

記事を読む

no image

中西輝政「情報亡国の危機」東洋経済新報社

インテリジェンス関係の本は好んで読むもののひとつ。と言うと、かなりとんでもない印象を持たれかねないか

記事を読む

no image

平野敦士カール、アンドレイ・ハギウ「プラットフォーム戦略」東洋経済新報社

20101011163303 前評判ほどの満足感はなかったが、良書 こういうビジネススク

記事を読む

坂下仁「いますぐ妻を社長にしなさい」サンマーク出版

20140508181836 いますぐ妻を社長にしなさい著者 : 坂下仁サンマーク出版発売日 :

記事を読む

no image

カーマイン・ガロ「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション」日経BP

20111221223951 タイトルと内容に齟齬がある悪い見本だ。半分くらいはアップル以外の話だ

記事を読む

no image

マニュアルの存在理由/森博嗣「常識にとらわれない100の講義 」大和書房⑤

20130405010158 私はマニュアルの効用を完全に信じている。しかし、マニュアルの

記事を読む

google adsense

google adsense

ドコモ「dアカウント」と「ポイント共有グループ」の整理

20181106112305 ドコモに3回線MNPの顛末(2

ワイモバイルにMNP

20181104115802 この記事を見て、小一時間考えてMN

ドコモに3回線MNPの顛末(2018/09)

20181029231515 ちょうど1カ月が経つので、思いつく

キャッシュレスまたはクレジットカード

20181023225403 政府がキャッシュレスを進めているみ

MediaPad M3 LTE プレミアムモデル購入して2か月

20170409130135 もう2か月が経ってしまったけど、記

→もっと見る

  • 名前:Max 年齢:人生の2合目くらい 誕生日:夏の暑い日 一言:他言無用ということでお願いします
  • あわせて読みたい
  • にほんブログ村 本ブログへ
PAGE TOP ↑