D・カーネギー「人を動かす」創元社
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書評(書籍)
内容は極めて平易。しかし主に米国におけるエピソードを多く引いてくることにより、文章の面白味を増し、説得力を高めている
女性の服を褒めることが好きだ。自分がよいと思ったら、それを相手に伝えずにはいられない。ただ男性が女性の服を褒めるというのは日本語の国ではあまりないのではないかと思う。慣れていない女性だとかなり不審がられる
p14.犯罪者は、たいてい、自分の悪事にもっともらしい理屈をつけて正当化し、刑務所に入れられているのは不当だと思い込んでいるものなのである
p24.われわれも、他人をやっつけたくなったときには、ルーズヴェルト大統領のまねをして、「リンカーンなら、こういう場合に、どうするだろう?」と、考えてみることにしようではないか
p28.フーヴァーは叱らなかった。批判もしなかった。それどころか、整備士の肩に手をかけて、こういった。「君は、二度とこんなことをくりかえさない。私は確信している。確信している証拠に、明日、私のF-51の整備を君にたのもう」
p74.友を得るには、相手の関心を引こうとするよりも、相手に純粋な関心を寄せることだ。人間は、他人のことには関心を持たない。ひたすら自分のことに関心を持っているのだ
p98.幸不幸は、財産、地位、職業などで決まるものではない。何を幸福と考え、また不幸と考えるか――その考え方が、幸不幸の分かれ目なのである。「物事には、本来、善悪はない。ただわれわれの考え方いかんで善と悪とが分かれる」――これは、シェークスピアのことばである。「およそ、人は、幸福になろうとする決心の強さに応じて幸福になれるものだ」――これは、リンカーンの言ったことだが、けだし名言である
p110.図書館や博物館の豪華なコレクションのうちには、自分の名前を世間から忘れられたくない人たちの寄贈によるものが多い。ニューヨーク市立図書館のアスター・コレクションやレノックス・コレクションがそれであり、メトロポリタン博物館ではベンジャミン・アルトマンやJ・P・モルガンの名を永久に伝えている。また、教会のうちには、寄贈者の名を入れたステンド・グラスの窓で飾られているものが多い。大学のキャンパスには、個人の名をつけた建物がよくあるが、この人たちは自分の名前を記録してもらうために多額の寄付をした場合が多い
p126.「世間には、自分の話を聞いてもらいたいばかりに、医者を呼ぶ患者が大勢いる」
p139.人間の行為に関して、重要な法則が一つある。この法則にしたがえば、たいていの紛争は避けられる。これを守りさえすれば、友はかぎりなく増え、常に幸福が味わえる。だが、この法則を破ったとなると、たちまち、はてしない紛争に巻き込まれる。この法則とは――「常に相手に重要感を持たせること」
p144.人は誰でも他人より何らかの点ですぐれていると思っている。だから、相手の心を確実に手に入れる方法は、相手が相手なりの世界で重要な人物であることを率直に認め、そのことをうまく相手に悟らせることだ
p159.議論に勝つ最善の方法は、この世にただ一つしかないという結論に達した。その方法とは――議論を避けることだった。毒蛇や地震を避けるように議論を避けるのだ。議論は、ほとんど例外なく、双方に、自説をますます正しいと確信させて終わるものだ
p258.二度目に行ったときは、わたしは数字の表だの資料だのにこだわらず、調査した事実を劇的に演出してみせた。かれの部屋に入っていくと、彼は電話をかけていた。その間にわたしは、鞄の中から32個のコールド・クリームの容器を取りだして、彼の机の上に並べた。彼が知っているかぎりの製品、すなわち、彼の競争相手の製品全部である。各容器には、調査結果を記入した札がつけてある。それぞれの札が、そのクリームの売れ行き状態を、簡潔に、かつ劇的に語るという仕組みだ。その効果はめざましかった
p261.シュワップは何も言わずに、床の上に大きな文字で”六”と書いて出て行ってしまった。夜勤組が入ってきて、この字を見つけ、その意味を昼勤組の工員にたずねた。「親分がこの工場へやってきたのさ。今日、何回鋳物を流したか、と聞かれたので、6回だと答えると、このとおり”六”と書きつけていったのだ」。シュワップは、翌朝またやってきた。夜勤組が”六”を消して、大きな字で”七”と書いてあった。昼勤組は対抗意識を燃えあがらせてがんばり、退勤時には”十”と書き残した。こうして、この工場の能率はぐんぐんあがって行った。「仕事には競争心が大切である。あくどい金儲けの競争ではなく、他人よりもすぐれたいという競争心を利用すべきである」
p273.昼食が済むと、社長はこう切り出した――「さて、いよいよ商売の話に移りましょう。もちろん、あなたがいらっしゃった目的は十分承知しています。あなたとこんなに楽しい話をしようとは予想していませんでした。ほかの注文は遅らせても、あなたのほうはきっと間に合わせますから、安心してお帰りください」
p274.このように、まず相手をほめておくのは、歯科医がまず局部麻酔をするのによく似ている。もちろん、あとでガリガリやられるが、麻酔はその痛みを消してくれる
p277.この失敗は、”しかし”という言葉を、”そして”に変えると、すぐに成功に転じる。「ジョニー、お父さんもお母さんも、お前の今学期の成績が上がって、本当に鼻が高いよ。そして、来学期も同じように勉強を続ければ、代数だって、ほかの課目と同じように成績が上がると思うよ」。こう言えば、ジョニーは、ほめ言葉のあとに批判が続かないので、素直に耳を傾けるだろう。これで、ジョニーに変えさせようとした問題点が遠回しに知らされたことになり、その結果、彼は期待に応えようと努力するだろう
p294.サンテグジュペリは次のように書いている。「相手の自己評価を傷つけ、自己嫌悪に陥らせるようなことを言ったり、したりする権利は私にはない。大切なことは、相手を私がどう評価するかではなくて、相手が自分自身をどう評価するかである。相手の人間としての尊厳を傷つけることは犯罪なのだ」
p300.人を変えようとして、相手の心の中に隠された宝物の存在に気づかせることができたら、単にその人を変えるだけでなく、別人を誕生させることすらできるのである。これが、大げさだと思われるのだったら、アメリカが生んだ最も優れた心理学者であり哲学者でもあるウィリアム・ジェームズの次の言葉に耳を傾けられるとよい。「われわれの持つ可能性に比べると、現実のわれわれは、まだその半分の完成度にも達していない。われわれは、肉体的・精神的資質のごく一部分しか活用していないのだ。概して言えば、人間は、自分の限界よりも、ずっと狭い範囲内で生きているにすぎず、いろいろな能力を使いこなせないままに放置しているのである
p306.古いことわざにいう――「犬を殺すには狂犬呼ばわりすればよい」。一度悪評が立ったら浮かばれないという意味だが、逆に好評が立てばどうなる?
p318.新しい責任と肩書きを与えられたこの女店員の仕事ぶりはガラリと変わり、自分の任務を完全に遂行するようになったという。これは、子供だましのような気がするかもしれない。だが、ナポレオン一世も同じようなことをやった。彼は、自分の制定したレジョン・ドヌール勲章を千五百個もばらまいたり、18人の対象に”元帥”の称号を与えたり、自分の軍隊のことを”大陸軍”と呼んだりした。歴戦の勇士を”玩具”でだましたと非難されると、彼は答えた。「人は玩具に支配される」
p331.ロシアのカザリン女帝もそうだった。彼女は世界最大の帝国を支配し、数百万の国民の生殺与奪の権を握っていた。政治的には相当むごいこともやり、戦争を起こして無数の敵を殺戮した。だが、料理人が肉を焼きすぎた場合、ひと言の文句も言わずに笑ってそれを食べた。この点は世の夫はよく見習っていただきたい
p333.男性は、5年前に自分が着ていた服や下着のことを思い出すことができないし、また思い出そうともしない。しかし、女性は違う。男性は、よくことのことを理解すべきだ。フランスの上流社会では、男性は婦人の服装について一晩に何度もほめるものと、子供のころから教えられている。まことに賢明な知恵である
20090120175500
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