加登豊「インサイト管理会計」中央経済社
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書評(書籍)
前書きに「知識と洞察力が必要なビジネスパーソン向けの本は、不思議なことにこれまで存在しなかった。この本は、その間隙を埋めることを目指している」とある。その目的は達せられている。シンプルに管理会計の概念を説明しているのが好感。だがその分、それぞれの文章の関係が捉えにくくなっているようなところも見られる。概観を捉える入門用としていいのではないか。別の本も読んで次に繋げるもの
管理会計に対する疑い、そもそもの予算に対する疑い、また本書でいう「組織間コスト雌マネジメント」に対する疑い
p6.投資意思決定は財務的効果の面からだけで判断はできない。投資対象となっている設備を支える技術の新店の動向を把握して、画期的技術の実用化によって飛躍的に処理能力の高い設備が数年後に入手可能であると判断される場合には、投資時期を先延ばしにするほうが結果的に望ましいかもしれない。また、競争企業の動向にも目を向ける必要がある。このように、設備投資にあたっては管理会計的観点のみでけっけいを行ってはならない。もちろん、財務的評価を行わない設備投資にも大きな問題がある
p40.Kaplan=Norton(1996)によれは、「戦略は、原因と結果に関する一種の仮説」(吉川武男訳『バランス・スコアカード』生産性出版、p195)である。つまり、戦略はどのように企業目標を実現すればよいかについての道筋を示すものであると考えている。バランス・スコアカードに組み込まれる戦略目標間(ないし業績指標間)の関係を設定し、つなぎ合わせることにより、企業目標を実現する道筋、すなわち戦略を具現化することができる。バランス・スコアカードによって戦略を具現化することで、組織成員の戦略に関する理解度を高めることができる。また、戦略が戦略目標(ないし業績目標)の連関として表現されているために、想定された戦略がうまく実行されているかをチェックすることができる
p41.バランス・スコアカード(Balanced Scorecard: BSC)は、財務的指標だけではなく、非財務的指標を併用して多面的に企業業績を管理する業績測定システムで、通常、「財務の視点」、「顧客の視点」、「社内ビジネス・プロセスの視点」、「学習と成長の視点」の4つの視点を持つ。バランス・スコアカードが開発された背景としては、財務的指標に偏重した経営を行っていた企業実務において、①将来の価値向上を犠牲にした業務が遂行された(短期利益の重視)、②タイムリーな意思決定ができない(意思決定のタイムリーさの欠如)、③従業員個人が行う業務の効率性や効果を直接測定できない(業務効率の測定の困難さ)、④顧客を無視した経営を促す(顧客志向の欠如)、⑤情報共有が図れない(情報共有の困難さ)といった弊害が見られたことがあげられる
p100.予算管理システムが現実には機能していないため、予算は廃止すべきであるという最近の主張を脱予算論(Beyond Budgeting)という。脱予算論は、J.Hopeが中心となって提唱している。脱予算論によると、予算管理システムには以下のような問題点があると主張している。つまり、①予算編成プロセスにあまりにも多くの時間と労力がかかっている、②予算目標と報酬が関連している場合には部署が真実の情報を開示しようとしない可能性がある(予算ゲーム)、③資源配分を固定化することにより、変化に対して柔軟な対応ができない、④財務的な業績を重視するために、企業の長期的な存続のための経営資源が蓄積されない、といった指摘がなされている
p226.わが国の事業部制組織の抱える問題として、「事業部を超えた技術や情報の共有が進まない」とか、「本社からのコントロールが強く意志決定が遅い」などが指摘されてきた。カンパニー制では、事業単位をより広く設定することでこれらの問題に対処し、事業観の技術的なシナジーを創出し、迅速な意思決定を行うことが期待される。このように、事業部制組織形態において生じる非効率性を回避し、市場環境に柔軟に対応すると同時に、事業単位についての責任と権限をよりいっそう明確化する点にカンパニー制の特徴がある
p235.自動車産業のような加工組立型の企業では、製造コストに占める外部購入費の割合が70%を超えるともいわれている。このような産業においては、自社のみでコストマネジメントを実施するよりも部品を提供してくれるサプライヤーと協同してコスト低減活動を行うほうが効果的である場合が少なくない
p236.例えばバイヤーは年間数%のコスト低減目標を伝達し、自社製品の設計や製造プロセスの改善、VA教育やその指導をサプライヤーに実施して、目標の達成に取り組む
20090118100000
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