梅谷薫『「病」になる言葉』講談社

公開日: : 書評(書籍)

昔から不思議だった。人は似通った境遇にいても、発症する病気は異なるということ。素人ながら勝手に、遺伝によるもの、食物によるもの、そしてストレスによるものという3つに分類していた。言葉や考え方が身体の健康に与える影響について興味深い説明をしている
さすがに心療内科医、文章にも誤解を与えそうな物言いを緩和するような一文を付加するような配慮がなされている。読んでいて安心できる
やっぱり笑うことが大事だということなんだけど、笑えるものってそれほどないと思っている。最近は、タモリ倶楽部しか笑えない状態だ。なにか笑えるものをもっと探さないといけない

p29.昔からいう「手当て」とは、腹部が温まって副交感神経が優位となり、胃腸のけいれんが収まった状態です。胃のレントゲン検査や内視鏡で痛みの原因を突き止めにくい理由も、この平滑筋の収縮にあります。こうした検査は、抗コリン剤で胃腸の動きを止めて行われ、動きの止まった状態でがんや潰瘍がないかを細かく調べます。そのため、胃のけいれんなど、胃腸の動きについてはよくわからないのです
p61.子どもが虐待を受けると、喘息やアトピー性皮膚炎などといった、アレルギーの病気にかかりやすくなることが知られています。もちろん、喘息やアトピーの子どもたちがすべて虐待されているわけではないことはいうまでもありません。大人でも、甲状腺疾患や潰瘍性大腸炎など、免疫が関係する病気は、ストレスによって悪化することがわかっています。まとめると、毒のある言葉による攻撃は、その人の気持ちを落ち込ませて「うつ」状態を作り出します。全身の自律神経系を緊張状態に置き、ホルモンバランスを崩します。また、免疫力を低下させるので、病気にかかりやすくなります。持続的な免疫力の低下は、がん発生の危険性を高めます。がんや高血圧、心臓病、胃腸病など、ストレスがらみの病気はとても多いのです。心療内科は、こうした「心身症」、つまり心のストレスが身体に現れる病気を扱っています。狭心症や心筋梗塞などの重大な心臓病から気管支喘息、十二指腸潰瘍にいたるまで、多くの病気がストレスに関係していることがわかっています
p63.お笑い番組を観たり、落語を聴いたりすると、ナチュラル・キラー細胞が増加します。大笑いすることでストレスを発散し、免疫細胞の働きが高まるのです。つまり、がん細胞などを排除する力が増すわけです。逆にひどく悲しいことがあったり、気持ちが落ち込んで抑うつ的になったりすると、この細胞活性が低下します。がんにもかかりやすくなります。「精神腫瘍学」という学問が最近話題になっています。「あなたはがんです」と告げられると、私たちは将来を悲観して、落ち込んでしまいます。すると、ナチュラル・キラー細胞の活性が低下して、ますますがんを悪化させやすくなってしまうというのです
p66.支持的精神療法といわれる「ロジャーズ法」があります。ただ黙って「聴く」ことを重要な治療だと考えるこの方法では、悩みをそのまま受容的に聴いてもらうことにより、「そのままの自分を受け入れてもらえた」という感覚を得られます。それを続けることにより、患者さんは少しずつ自信を取り戻していけます
p85.DV加害者として外来に通う男性に訊いてみると、女性からの言葉の攻撃をうまく受け止めることができず、逃げ道がなくなって手を上げるという人が意外に多いのです。特に男性の「心理耐性」が弱い場合、つまり堪忍袋の緒が切れやすいタイプは、我慢ができない可能性が高くなります。そして、自分に対する満足度が低い人ほど、逆に「プライド」を高くして身を守ろうとする傾向があります。男は地位や名誉、収入や学歴など、プライドを保証するものを求めて競争していることが多いといえます。自分の価値を証明する「プライド」に関する部分を攻撃されると、心のバランスを失って、必死に反撃しようとするのです
p88.医者に治せる病気は限られています。原因のわからない病気、原因がわかっても治せない病気はとても多い。それでも医者なら、なにか言わなければなりません。苦しまぎれに出る言葉が、「ストレスのせいかもしれません」「要は気の持ちよう」なのです。つまり、医者もわからないから、ほとんど無意識のうちに証明不可能な世界に持ち込んでしまうわけです。ちなみに、整形外科でよく使うのは、「歳ですね」の一言
p120.頭脳労働は、新しいプロジェクトの企画を練ったり、予算の割り振りを考えるような、論理中心の「知的労働」と、感情を動かすことが必要な「感情労働」とに分かれます。カウンセラーや看護師、教師などは感情労働の典型だと考えられます。さらには、キャビン・アテンダント、クレームの処理担当をはじめ、「接客業」と呼ばれる業種は「感情労働」の比率が高く、ストレスをためやすい状況のため注意が必要です。感情労働は、相手に「共感」することが基本なので、知的労働に比べてとても疲れやすいといえます
p123.実は医者は、病気そのものの治療をしていると同時に、患者さんの「自己評価」の回復も行っています。「心のリハビリテーション」といってもよいでしょう。「失われた尊厳の回復」という意味です。治療がうまくいって身体の状態が回復してくると、自己評価も回復してきます
p130.私は夫と息子を必要としている。でも、そこには自分の居場所がない。夫や子どもと離れていないと、自分を落ち着いた状態に保つことができないのだ、と。いろいろ悩んだあげく、近くのアパートを借りて別居することにしました。とてもつらい決断です。でも、そうしなければ、自分も家族もダメになってしまう。その切実な思いが彼女を踏み切らせました。それから半年、ようやく家事をするために家に通うことができるようになりました
p137.たとえば「生活習慣病」と呼ばれる病態も、ただの食事や運動の偏りではありません。その底には、その生活習慣を選んでしまう「自分への定義」が存在します。それをきちんと認識して変えていかないと、生活パターンはなかなか変化しないのです。多くの人は、それを自覚することが難しい。なぜか自分は運が悪い、最後のところでいつも失敗する、なかなかいい人に巡り会わない。そう思いながら暮らしています。でも、その理由は明確です。うまくいかないように、自分の中の自分が邪魔をするからです。「なにをやってもうまくいかない、それがおまえの定めだ」と心の奥に書いてあるからです。少なくとも、私の外来を訪れる方たちは、そう口にします
p155.「たいへんでしたね」は強い共感の言葉です。十分話を聞いたと感じたところで、きちんと言ってあげる。だって、聞けば本当にたいへんなのですから。こちらが心からそう思っているかどうかは、表情や声のトーン、抑揚でちゃんと伝わります。女性の相談者であれば、ここで泣いてしまう方も多い。しばらく黙って泣いてもらいます。涙を流すと、気持ちがずいぶん軽くなります。「なんだかとても楽になりました」と、ほとんどの方が言います。心理療法の基本は「承認」にあると、私は考えています。その人の苦労を認める
p163.だれでも、ひどく落ち込むことがあります。そのとき、心に響くのは「無条件の肯定」です。「あなたは、そのままでよい」 今のあなたを私は無条件で受け入れる、そういうメッセージのことです。どのような罪人であれ、無条件に肯定することができる者、それは2人だけいるといわれています。1人は「神」、そしてもう1人は「母」です。ただし、実際の母親は文句も言うし、条件もつける。だからこの「母」は、「象徴としての母」です
p167.「お母さん、僕、改めてお礼が言いたいんだ。昔はどうして家族がばらばらに住んでいるんだろうって苦しんだ。お母さんを恨んだこともある。でも、心理学科に行きたくて勉強しているうちに、ふと思ったんだ。お母さんが離婚せずに別居で我慢してくれたおかげで、お兄さんも僕も大学に行ける。好きな道を選ぶことができる。これって、すごく幸せなことなんじゃないかってね。だから今のうちに言っておきたいんだ。これまで本当にありがとう」
p178.内容的には、「毒になる言葉」のほうが個別的で幅広い分野にわたっており、「薬になる言葉」は共通のものが多かったといえます。後者は、たとえば「ありがとう」「大丈夫」「これ以上、がんばらなくていいよ」などに集中する傾向があります。言葉による攻撃は、一人ひとりの持つ弱点を具体的に突いてくることが多く、言葉による癒しはその人のすべてを承認したり、肯定的にとらえたりしていることがわかります
p186.「ひきこもりの娘を連れて、おそるおそる精神科にかかった。年配の先生は、娘に静かに話しかけてくれた。『大丈夫、私はあなたの味方だよ。困ったことがあったらいつでもここに来ていいよ』ありがたかった。10年間母娘で抱えてきた重荷がスッと軽くなる気がした。ご自身ががんを患って具合が悪くなってからも、『○○先生はとてもよい先生だから、紹介の手紙を書いておきましょう。万が一うまくいかなかったら、いつでもまたいらっしゃい』と、最後までやさしい気づかいをしてくださった。先生が亡くなった後もときどき、そのことを思い出しては手を合わせています」

20090414003156

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