小池和男『日本産業社会の「神話」』日本経済新聞出版社

公開日: : 書評(書籍)

そのタイトルのとおり、日本の産業社会における「神話」が紹介されている。ここでいう神話は、「根拠もなく絶対的なものだと信じ込まれ、多くの人々の考え方や行動を拘束してきた事柄。」のほうだ(こういうとき、ATOKプレミアムって便利)
このとき、「日本の産業社会のこれは、むしろ逆だ」というものもある一方で、「日本だけは特殊なように語られるけど、決して独特なものでなく、諸外国でも同じだ」というものも多い。年功序列とか、査定に差をつけないとか、サービス残業はどこでもあり、データの取り方の問題ではないかなど
こういうところまで常識を疑わなければならないか、と思わせる

p19.新古今は、撰者1人推薦のものがじつに46.8%にのぼる。5人推薦すなわち全員一致はわずか1.3%にすぎない。なお撰者本人の歌の自薦はさすがになく、したがって全員一致を多少は低めている。いかに個人の推薦が重要であるかが確認できよう
p21.実際その1年後、おそらく新井白石が予期したように甲府藩から求人がくる。師の順庵はその提示するサラリーが低いことに難色を示したが、白石はあえてそれをうける。ときの5代将軍綱吉は男子を持たず、甲府藩主がつぎの将軍に進む可能性があることにかけたのであろう。その11年後(なんと待ったことか)、白石が仕えた甲府藩主がつぎの将軍を約束されたクラウンプリンスとして西の丸入りする。5年後家宣は将軍となり、白石は将軍のコンサルタントとなった
p23.桂小五郎は当時の当時の大手3大道場、斉藤、千葉、桃井の対抗試合のおそらく最初の優勝者(斉藤道場代表)であり、いわば日本選手権優勝者であった。したがってかれが後年池田屋を訪れ、あまりに早すぎいったんは他出したことで結果的に池田屋の難を逃れ、芸者幾松(のちの木戸夫人)の助けによって命を保っても、だれもかれを臆病者とはいわないのであった。また坂本竜馬もそれにつづく日本選手権優勝者である。それゆえにこそ、かれに立ち向かった暗殺者が注目されるのだろう。いったい全日本選手権者でなければ、桂と異なり藩の背景のとぼしい郷士出身の坂本竜馬が、大藩の有力者と話ができたであろうか。だれもが知るその盛名があればこそ、あれほどの説得力を行使し得たのではないだろうか
p24.いいゆるされたことだが、もともと日本人の愛好するスポーツは、わたくしの知るかぎりチームスポーツではなく、ほとんど個人スポーツのように思う。剣道、柔道、相撲などであって、江戸後期、いったいサッカーやラグビーのようなチーププレイのスポーツが愛好されたのであろうか
p33.ビジネススクール人事担当教員たちの答えはほとんど共通して、あまり査定に差がない、というものであった。その理由は事業所側に差の根拠を立証する責任があるからだ、と言う。立証責任とは米は弁護士が多く訴訟がひんぱんに起こされるので、それに耐えるような証拠を出すでき人をいう
p34.裏ばかりでは有望な人にその結果が伝わらない。そこで有望な人が失望しその企業をやめないよう、その人たちにそれとなくあなたは前途有望だとのシグナルを送る。シグナルの送り方はさまざまだが、上司の自宅でのパーティ=飲み会もあろうし、また業績給でとくに有利な方式を提示する、などであった
p44.高度な作業の働きぶりは――それこそが競争力の源泉でくらしと雇用を守るのだが――とうてい数値であらわせず、仕事をよく知る人の「主観的」な判定によるほかない、これが結論である。主観ゆえに、あるていどの恣意性はやむをえない。そのうえで、その恣意性をなるべくすくなくする方策を考えるほかないだろう
p63.しかもこの集計は、日本の人の内輪に答える傾向をもきちんと考慮している。リンカーンたちはその性向をよく知り、集計はプラスとマイナスのみで、「大いに満足」「やや満足」などという「ていど」は無視して集計している。まことに理にかなった集計である
p67.日本の職場の働きぶりは、会社への愛着よりもはるかに雇用システムや企業のシステムによる。なかなか良識的な推論で、長期雇用ゆえに企業は人材形成に投資でき、また企業内の意思決定システムに従業員が発言できることをいう。別に規定に書かれていなくとも実質的に経営に発言できるシステムがある
p92.きびしい勤続順の昇進とは、日本ではなく米の生産職場でごくふつうの慣行なのだ。先任権(seniority)である
p94.日本の年功制度の奇妙な特徴といわれること、上位の仕事を担当している若い人のサラリーが、下位の仕事ながら勤続の長い人のサラリーより低いというのは、米のホワイトカラーでもよくあることなのだ
p107.18世紀前半、吉宗の足高制という大きなサラリーの改革があった。それは家禄とは別に有能な人材を広く求めるために、職務ごとに1本のサラリーを決めたのである。江戸町奉行は3000石などである。それ以下の家禄の人でもその職につけることができ、そのばあいは不足分を禄高に足して職務給として支給する。その職を退くともとの禄高にもどるはずなのだが、実際には有能な人である以上、さらに高禄のポストに昇進していき、結局は相当な右上がりのサラリーをうけた
p115.真に重要なことは文書に書かれないものだ。その点はどの時代のどの国でも同様であろう
p121.他国でもわたくしの知るかぎり同様で、サラリーは資格で払い職位ではない。よく仕事ごとにサラリーをきめることこそ真に効率的なサラリー、資格ごとは遅れた国の慣行だ、という見方を聞く。だが、高度な仕事については、仕事ではなく資格や「仕事能力」でサラリーを決めるのは、現代欧米大企業にとどまらず、そのもっとも伝統ある大組織、米軍でも同様なのであった
p135.ここから、なにをいいたいのか。世界の傾向は、日本でにぎわしい議論とはべつに、高度な仕事にはもともと仕事ごとではなく中長期重視のサラリーであって、のちそれを社内資格給というみやすい長期重視のサラリー方式へ、そしてグローバルスタンダードにあう方式へ、移行してきたのではないだろうか。その実態をみのがし、短期重視へと逆行しつつある日本企業の現状を懸念する
p157.労働省内のさまざまな会合では何回もわたくしはそのことをいった。当時わたくしは複数の審議会の委員であり、さまざまな省内の研究会に参加していた。口頭でいえばすぐれた労働省スタッフがそのうち訂正の文章をだすだろう、とあまく期待し、それは残念ながらはずれた。そして、事実に近い労働時間数をあげえないがゆえに、わたくしの『仕事の経済学』には、各版をつうじ労働時間はわずかに注に記すにとどまる。いまなお充分な数値を得るのは難しいが、老い先短い身、あえておもうところを記す
p166.他国にも「サービス残業」はかなり存在するのだ。したがってより正確には「サービス残業」というよりは「記録なしの残業」というべきであろう
p168.はやい話が、なぜ日本でも課長以上では残業を記録もせず残業手当を払わないのか、そこから考えよう。それは課長以上の仕事はありきたりのマニュアルではまったく規定できないからである。規定できればなにも課長職はいらない。判断業務が一切ないということになるからだ。つまり課長の仕事の内容、その仕事の仕方は課長個人の判断や考え、すなわり創意工夫によるほかない。それゆえ、これだけの作業を行えばよい、という基準ができない。かりに文章に書いてもごく抽象的な表現にとどまる。当然のことながら、できる課長とできない課長の個人の効率差ははなはだ大きいのだ。その個人差は高度な職ほど大きい
p214.中国の関税自主権回復を1920年代欧米に提案したのは日本だが、米英から拒否された。それは第一次大戦後のベルサイユ条約会議で人種差別禁止を日本が提案し、列国から拒否されたことと軌を一にする

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