原賀真紀子『「伝わる英語」習得術-理系の巨匠に学ぶ-』朝日新書



面白かった。勉強になるというよりも、参考になる。蘊蓄系の読み物としても楽しい


「英語を習得するのなら、自分は参考にならない」とか、自分の英語は下手だと卑下する言い方が、いかに多いことか。その下手か上手かを超えたところにツールとしての日本人の英語の本質があるように思う


見ていても、みな自分の都合のように解釈しているのだと思うこともある。それが自分に照らしても「これ、使える言い訳だな」として、メモを取っていたりするのが、人間だもの、と感じてしまう




p14.(きたやま)発表する1週間くらい前に、上司に相談に行ったんですよ。そうしたら、「冗談を3つ考えろ。それで笑わせることができたら、イギリスでは大成功なんだから」って言われましてね。要は、発表の中身なんかじゃないよ、言った冗談がウケるかどうかで決まるんだよ、と


p16.発表はコミュニケーションなんだから、補助器具をたくさん用意して、とにかく中身がよく相手に伝わるように表現するということです。資料を配る。スライドを用意する。今はパワーポイントがあるしね。ぼくは発表の前に資料を全部印刷しておいて、聞く人が100人いれば100人に配ります


p23.この国ではみんなの前ではっきりものを言ったって、よくなことはないんです。得することなんてないんです。むしろ、滅多なことは言わないほうがいい。だからね、小学校の1、2年生までは、「はい」「はい」ってにぎやかに手を挙げていた子どもが、3年生くらいになると喋らなくなるでしょ。あれはなぜかというと、「恥」をかくからですよ


p31.なぜアメリカであれほど多くの人が精神分析を受けていたのかというと、実は「本音」を喋りに行っていたのだと思いますよ。今でも精神療法や精神分析なしでは生きられないような人たちがアメリカの中産階級以上には結構たくさんいて、カウンセリングやセラピーに通っているわけだけど、いったい彼らはそこでなにを喋っているのかというと、日本人が温泉とか飲み屋に行ってぶちまけるような話をしているんですよ


p35.「裏」の付き合いをするには、みんなで一緒にカラオケに行くしかない。日本人は公的な場面で表と裏の両方をやることはできなくて、結局は「飲みに行きましょう」という話になってしまうんです。そういうの、外国の人たちは嫌がりますよね


p46.雄弁さが持つ「無意味さ」。まるで歌っているようで、それが評価されるんだよね。レトリックの中核にあるのが、要するにこれだと思う。飾るんだよ、言葉をね。韻を踏んだりして飾る。言葉を弄して、そのわりにはさほど多くのことは言っていない


p53.(小柴)1957年くらいだったかな、アメリカのシアトルで物理の国際学会があって、そのときに初めてソ連から大物が来た。これがもう、とんでもない英語でね。英語らしくない英語というか、英語に聞こえない英語。それでもその人がやっていた研究の内容がすごいから、アメリカ人もイギリス人もいちばん前に陣取って、一生懸命彼の話を聞いてたよ。こっちも想像力で聞いたね


p54.いちばん大事なのは、自分の言おうとしていることが、はたして価値のある内容なのかどうか。それだと思うよ


p58.いちばん得意だったのはね、パーティーでアメリカの奥さん連中に話すジョーク


p63.帰国を決めた第一の理由は、本物の日本の飯が食いたいということで、二番目の理由は、一研究者として仕事で勝負しているうちはいいけれど、管理職に就いて自分では研究の成果を上げられなくなって、そのぶん人事だとか予算だとかを決める会議に出なきゃならなくなって、議長になったりなんてことになると、こういうのはどうしたってぼくの英語じゃ駄目だよね


p70.人間の「認識能力」には、「受動的」なものと「能動的」なものと、はっきりと二種類あるんですよ。教室で教わったことを理解して、覚えて、筆記試験に書くというのは、じゅどうてきなにんしきのうりょく。だから、筆記試験でいくらいい点数を取ったとしても、なにをやろうとかどうやってやろうとか、自分で能動的に働きかける認識能力のない人間にとって、その知識は、使い道のない武器を持っているようなものなんですよ


p79.(養老)西洋の言葉はあくまでも『音声』が中心だけれども、日本語は『読み』が極めて重要な『視覚言語』だから、『読み』のために動員している脳のスペースが、多言語の人たちと比べると格段に広いんですよ


p80.わざわざ脳の二カ所を使ってこうした音訓読みのようなことをするのは、おそらく日本人だけでしょう。そこまで『読み』には大きなエネルギーを使っても、『話す』には重きが置かれることはなかったんです。その結果日本語では、『話し言葉』と『書き言葉』が、英語などに比べて大きく分離してしまったのではないでしょうか


p84.「言語」というのは、ある意味では非常に怖いものなんですよ。たとえば、なぜヒトラーは夜の八時以降じゃなきゃ演説をしなかったか。それは、そのほうが大衆がついてくることを知っていたからです。夜は、頭の中が誰でも同じような状態になりやすいからね


p87.動物には「絶対音感」があるんですよ。人間だって、赤ちゃんのときは誰でも絶対音感を持っている。ところが「言葉」を理解するためには、絶対音感は不利なんです。お父さんが低い声で言ったこととお母さんが高い声で言ったことが同じ言葉なら、同じに聞こえないと困るでしょ。人は教育によって、絶対音感を失っていくんです。教育は言葉を使いますからね


p92.言語能力は間違いなく女性のほうが高い


p94.要するに、日本人は総合点で見ると運動が苦手なんです。特にそういう外国語を喋るような言語運動はね。中国語と比べても、言語運動のウェイトがまったく違うでしょ


p99.自分自身の文化に対して問題が生じてくる。本格的に練習すると、日本人じゃなくなっちゃうんですよ。「国際化、国際化」と一口に言いますが、「冗談じゃねぇよ、なにがインターナショナルだよ」と思うこと、あるでしょ


p103.そもそも日本人がバイリンガルになることと、ヨーロッパの人が同じ西洋の言語を2つも3つも話せるようになることは、全然違うんです。彼らにとっては、日本語で言えば東北弁とか九州弁などの方言を話しているようなものですよ。イタリア語とスペイン語なんて、お互いに自分の言葉で喋っていても不自由なくわかるみたいです。そうするとそれは、バイリンガルとは全然違う。でも、日本語と英語というのは、脳にものすごく大きな負担をかけているはずなんです。ヨーロッパの人が複数の言語を喋るようなことを、日本人は簡単には真似できないのです


p104.大学も1年生の最初の3カ月は、ほかのことをやらせずに英語だけを集中的にやらせて叩き込んだらいい。かなり力がつくと思いますよ。4年間も大学にいるうちの、たった3カ月でいいんだから。それでそのまま夏休みに1カ月くらい外国に行かせちゃう。そのくらいやらないと、日本人の英語は使い物にならないですよ


p114.文科系の本を英語に訳してみることを勧めるんです。やってみれば途端に、「客観性を持つべきだ」ということがわかりますから。若いときにオーストラリアでよく言われたんです。「おまえはエクスキューズが多い」って。向こうの文化だと、言い訳なんて言う必要がないんですよね。行為の「結果」が重要なんですから


p115.ロンドンの博物館に行くと、仕事をするときの「機能性」が日本人とは違うなと思いますね。たとえばキューガーデンでは世界中の博物館と標本のやりとりをしていて、どこにどういう標本を貸し出した、どこからどういう標本を借りているといった記録を、郵便局みたいなオフィスで管理しているのですが、それをおばさんがたった2人でやっているんですよ。さすがは近代郵便制度発祥の地だと驚きました。要するに、イギリスでは個人がそういう機能をきちんと果たせる、ということなんです。それに比べて、日本人はどうもそういうことが上手にできませんね。ある意味、機能性がはっきりしていないからでしょう。日本ではそれよりもほかのことが優先するでしょ。お付き合いとかご挨拶とか


『第七の封印』という、ものすごく抽象的な映画だったんです。映画館を出たら、スリランカの大学院生が「なんだあの映画は。なんにもわからん」と言い始めた。そうしたら、それほど頭脳明晰とは思わなかったユダヤ系の女の子が、一生懸命解説をするんですよ。あそこはこうで、ここはああで、と。ぼくはそのやりとりを見ながら、自分と西洋の人たちとは文化がまったく違うと思いましたね


p141.(日野原)講演というのは、はじめにユーモアでも言って観衆の気持ちをとらえることが必要です。そうすると聞いている人の目が輝く。そういうのを「話術」というのかもしれないけど、ぼくは話術というより「雰囲気」だと思う。聞く人と目が合うと、喋っているこちらも、とても楽しくてやり甲斐があるからね


p157.そういうときはね、少し間を置いて、”I don’t think I know.”って言うといいんです。こういうふうに言う努力をすると、英語は上手になる。ストレートな言い方ではなくて、クッションを1つ置いて、柔らかく


p160.戦地に行ったら後ろから「日野原っ、前進しろ」とか言われるわけでしょ。「君っ、前進しろ」じゃ駄目だもの。誰が呼ばれたかわからない。だから軍人は、部下の名前をものすごくよく覚える。それと同じように、アメリカでは一般的に人の名前を覚えようと努力するね


p167.(海堂)残念ながら、ぼくではこの本のお役に立てないのではないかと思いますよ。アンチテーゼみたいな話になっちゃいますから。ぼくは基本的に、英語なんか喋れなくても大丈夫だと思っているんです。むしろそこまで腹をくくることが、上達のためには必要かもしれない


p177.伝えたいことがあれば、必要な単語は自然と入ってきます。「英語を話す」ことよりも、「話す内容」を確立することのほうが大事だと思います


p180.”I’m not sure, but I think…” これを言っているあいだに心を落ち着けて、時間を稼ぐんです。で、相手の顔を見ながら、「あなたの意見はもっともで、深く検討する余地がある」というようなことを伝える。これは特に、ディスカッションまで発展しなかったときなんかにも使えますね。いざとなればこれを言えばいいと思っていると、それすらも言わないで済むこともある


p185.表面上はお互いにっこり笑って談笑しながら、机の下では舷舷相摩する


p198.(隈)講演のときもそうだけど、日本ではわりと大事なことはスキップしてますね。「なにを今さらそんな当たり前のことを言ってるんだ」と思われてしまう可能性だってある。だから、意外と大事なことなんだけど、それをあえて日本語では話さないということはよくあります。いちばん大事なことは言わないで、「うん。だよね、だよね」「だからなんだよね」という感じでコミュニケーションをしていることが多いですよね。肝心の「だから」のところを話さないで


p204.もう一つ、ぼくがプレゼンのときに心がけているのは「歴史観」です。たとえばヨーロッパでは、「歴史」というのは非常に大切なんです。だから、彼らの歴史を踏まえて自分はこういうことをやっている、というのを示すように心がけています。そういう歴史観を持っているかどうかは、ものすごく重要なんですよ


p228.フランク・ロイド・ライトは雄弁で、「建築は有機的であるべきだ」という自分の考えを積極的に発信した建築家なんですが、あるときラジオ放送でライトが話すのを聞いて、すぐに仕事を頼んできた人がいたそうです。作品のビジュアルを1つも見たことがないのに、ライトに頼んできたのだそうです。それくらいライトの話には説得力があったのでしょう




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