佐藤優「獄中記」岩波現代文庫
著者の著作は、これでいったん打ち止め。以下を含めて3冊を立て続けに読んだ
佐藤優「国家の罠-外務省のラスプーチンと呼ばれて-」新潮文庫: hiog
面白そうな考えや歴史事実や著作を紹介してもらったというメリットもある。昔ヘーゲル全集を持っていたが、捨てた。いまハイエク全集を持っており、捨てるつもりもない。そういう著者とは異なる自分でも、まったく関係なく共感を持ちつつ本書を読了した
タマちゃん、矢鴨の件は同じことを思っていた。崖に取り残された犬とか、岸に打ち上げられ川上りをするクジラとか
いい言葉が多いのでメモも多い。「必要は法を知らない」とか、そういう類の実学というか、リアルな力学をサポートする記述
タイトルのとおり、獄中の話も多い。しかし、むしろ、そういうところにいて、筆者の特殊性が開花し、結実しようとしている思考を垣間見るのが本書の味わい
このように、普通でない政治家や普通でない官僚を相手に、普通の国策捜査がされてしまったというところに、現在の検察不祥事の綻びの突端が見えたような気がする
そういう意味で、反体制というか、そっち方面に簡単に触れられるのが読書の醍醐味でもある。先日の後藤組組長の著作など。自分がそんな本ばかり読んでいるのかな
p3.情報(インテリジェンス)勤務についているときは、帰宅は午前2時頃で、朝8時には政治家との朝食会や勉強会という日程が毎日のように続いた。平均すれば1カ月に1回は海外出張があったので、いつも時間に追われていた
p7.「現実に影響を与えず、いたずらに殉教を求めるような抵抗運動は無責任だと思うのです。たとえ日和見主義者、転向者と罵られようとも、現実に影響を与えるように最後の瞬間まで努力するのがキリスト教徒に求められる倫理と思うからです。和田先生の姿勢と僕がいま勉強しているフロマートカ神学が重なり合うのです」
p8.フロマートカは「フィールドはこの世界である」、「信仰をもつ者はつねに前を見る」といって、社会主義国家においてもキリスト者が無神論者を含む他社に対して、生活の具体的場面で誠実に接することで、マルクス主義者が内側から変質し、無神論を超克した新しい人間が生まれると考え、それを実践した。フロマートカの社会倫理は、体制と決して同一化しないが、「プラハの春」に対する軍事介入のような究極的な状況を覗き、体制と全面的に対峙する道も選ばず、建設的批判者として社会に参与していくのがキリスト教徒の道であるというものであった
p12.「私は治安維持法で捕まった経験があるので“官”というのがどうしても好きになれません。官僚になる学生たちは要領がよく、知的水準もそこそこ高いのですが、役所につとめて数年経つと組織の論理でしか物事を考えなくなってしまいます」
p19.ヘーゲル『法の哲学』「理性なるものは現実的であり、そして現実なるものは理性的である」
p51.ハーバーマスの本では、17世紀末から18世紀に、コーヒー、ココアを飲む習慣がヨーロッパの有産階級に普及し、それとともに喫茶店文化ができ、喫茶店を中心に政治について論じる空間ができたとの考察がおもしろいです
p57.私は司法の中立性などということをまったく信じていません。第一次世界大戦時、ベルギーの中立を侵犯したことに対し、ドイツ皇帝ウィルヘルム二世は、「必要は法を知らない」と述べましたが、その通りだと思います
p74.外にいた頃に軽く読み流した浅田次郎の小説やエッセー(『殺られてたまるか』『初級ヤクザの犯罪学教室』『プリズンホテル』等)が実践的観点から現在相当役立っています
p80.ソ連時代、コーヒーはたいへん貴重品でした。特に私がモスクワ大学で研修していた頃(1987-88年)は、たいへんな物不足で、インスタントコーヒーは「賄賂」として大きな効果を発揮しました。街の喫茶店では、大豆や草で作った代用コーヒーしかなく、インスタントコーヒーを家でふるまうのが最高のもてなしでした。コーヒーを使って、学者人脈を相当広げました(インテリはコーヒーを飲み、庶民は紅茶を飲むというのはソ連時代の常識でした)。そんなことを思い出しながら、毎日2回のコーヒータイムを楽しんでいます
p83.公判では対立よりも矛盾が浮き彫りになるという構成を取りたいと考えています。日常的には、対立と矛盾はそれほど異なった概念として捉えられていませんが、哲学(特にドイツ系)の世界では、差異、対立、矛盾はまったく別の概念です。差異 各人の身長の差、顔つきの違い、趣味の違いのようなもので、解消することができないし、また解消を指向すること自体に意味がないもの。対立 一方が正しく、他方が間違えている、あるいは一方が強く、他方が弱いとの構造。一方が他方を呑み込むことで解消できる。(司法のロジック) 矛盾 あるシステム内では、正しい目的や指令を達成するために、手続き違反や不正行為をせざるを得ないとの内在的構造がある。システムを転換することで問題が解消する。(歴史の弁証法)
p85.要するに、国民全員が何らかの違法行為を犯さざるを得ない状況を作っておいて、ソ連共産党中央委員会の政治判断に基づき、民警、検察が特定のターゲットを摘発するというのがパターンでした
p91.『キリスト教史』はカトリックの正統的立場から書かれたものです。プロテスタントの世界で「善」とされていたことが、カトリックの見方では「悪」となってしまうのがとても興味深いです。プロテスタントからすると「宗教改革の時代」がカトリックの立場では「信仰分裂の時代」になるのです。テルアビブの国際学会にしても、2000年4月時点では川島外務事務次官が「よい企画だ」ときわめて肯定的な評価をし、東郷欧亜局長も「これこそ支援委員会予算の正しい使い方だ」と言い、倉井室長も全面的にその尻馬に乗っていました。それが2002年には「犯罪」として処理されるのですから、私自身が刑事被告人であると言うことをあえて突き放して言うならば、とても面白いです。「改革」と「分裂」という正反対の評価は、何も遠い歴史の話だけではありません。プロテスタントから見れば、ルター、カルバンは英雄ですが、カトリックから見れば極悪人です。鈴木宗男先生にしても、2002年1月末までは外務省にとって「守護天使」でした。今では「悪魔」です。こんなことを考えながら、今日は午後のコーヒーを飲んでいました
p93.大室先生が、外務省関係者の供述調書を読み、「この人たちはまともな大人なのかという疑問を抱いた」と述べられていますが、まさに外務省はそういう人たちの集団なのです。強大な権限をもち、成功した際はその成果を自分のものとし、失敗したときは他人に押しつけるのは外務省の「社風」と言ってもよいと思います。鈴木宗男先生を利用するだけ利用し尽くし、いざ調子が悪くなるとドブに蹴落とすというのもいかにも外務
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