梅原猛 町田宗鳳『仏教入門 法然の「ゆるし」』新潮社とんぼの本

公開日: : 書評(書籍)



20111120154722


法然が気になる。正確にいうと、昔から気になっている。子供向けの、日本の歴史のまんがをセットで揃えて大学受験まで使うほどに読んでいた。そこで表現される法然が印象的だった。主張がラディカルすぎる。そしてその後の鎌倉新仏教のブームに大きな影響を与えた。このラディカルであるが、受け入れられた理由が端的に示されていた記憶。たしか「法然さまほど、たくさん勉強をしたお坊さんはいない。その法然さまが言うのだから、そのとおりなのだろう」と


そんな印象のとおりの内容をダイジェストで理解することができる。確かこれ、法然上人の800回忌の記念の出版のはず。最近、同様の書籍も多く、大きな本屋では特集が組まれたりしている。が、梅原ブランドでもあり、しかも「とんぼの本」なので、絵や写真が豊富で、カラー。非常に分かりやすい好企画


伝統勢力と戦いながらも関白や天台座主を味方につけて折り合いを付けるところ、簡単で救済を広くするが故に庶民や武士からの信頼も得るところが具体的に理解できて、魅力が増す


この法門の緩やかなところ、現実的なところに、強い興味。メモはしなかったが、巻末に浄土宗の当時のFAQの一部が紹介されており、泣けてくるほど噛み砕かれた説明。「酒は飲まない方がいいが、世の習いです」とか、スッと逃がすところがよい。なんだか、非が明らかな相手を詰めるときには逃げ道を用意しておけ、という処世訓のようだ


日頃、特段の強い宗教観を持たないという日本人が、先祖から所属する寺の宗教も言い難い、というときには浄土か禅と言っとくのが好都合だと思う。本来は禅の方が知的好奇心を覚えるような気がするが、それぞれ大乗と小乗の最先端という気がして、もっと勉強したいと思う。その一方である、浄土の手厚さに感服した一冊




以下、(監修 町田宗鳳)


p009.世に言われる「悪人正機」といえば、親鸞の『歎異抄』にある言葉として広く知られているが、これは親鸞のオリジナルではなく、法然がすでにまったく同じことを言っていたことが確認されている。善悪の価値を転倒させるかのようにして、極楽浄土への往生にまつわる一切の条件を取り払ったラディカルな言葉は、当時の思想状況においてまさに革命的だった


p012.法然は「独身だから念仏できないというなら、妻帯すればよい。妻帯しているからできないというなら、独身ですればよい」とも言っている。要するに念仏を称えることが最も大事なことであるのだから、それを妨害するものは取り去ればよいし、またそのための条件も必要がないと。このように現実に即した柔軟な教えを説いた宗教家は、法然以前にはいなかったと言えよう


以下、(監修 林田康順)


p022.天台教義の根本を記した「天台三大部」とその注釈書、全60巻をわずか3年という速さで読破した法然は、皇円からゆくゆくは比叡山の運営を担う「天台座主」になるよう、とまで励まされるほどの存在になっていた


p024.叡空のもとで、さらなる求道の道を歩み始めた法然は、わき目もふらず修学に励み、一切経(大乗および部派仏教の経典や戒律関係の典籍ならびにその解説書を集成したもの)を5度も読破。その探求があまりにも熱心だったので、学ぶとともに湧き出る多くの疑問を師である叡空にぶつけ、問答の末に師弟が自説を曲げず論争となることも少なくなかった。あまりに激しい議論の末に、立腹した叡空が法然を木枕で打ちつけるという場面もあったという


p026.東大寺と並ぶ有力な寺であった興福寺には因明(仏教の論理学)の大家であり、法相宗の碩学として知られる蔵俊がいたが、これを訪ねた法然が法相宗に対する疑問を呈したところ、蔵俊は返答することができず、「あなたはただの人ではない。おそらく神仏の化身である」と賞賛し、逆に法然を師と仰ぐようになったと言われる


p028.長い月日が流れ、1175年(承安5)の春3月、43歳になった法然はついに唐の善導大師が記した、次の一節に出会う。「一心に専ら弥陀の名号を念じ、行住坐臥に時節の久近を問わず、念々に捨てざるもの、是れを正定の業と名づく。彼の仏の願に順ずるが故に(「南無阿弥陀仏」と一心に仏の御名を称え、行動しているときもとどまっているときも座っているときも寝ているときも、いついかなる時でも心をこめて念仏を称えること。これこそが正しく往生できる行である。なぜなら、それが阿弥陀仏の衆生<生あるものすべて>を救うという誓願に適っているかたである)」


p032.こうして1186年(文治2)の秋、大原の里、勝林院の丈六堂にて、顕真や三論宗の明遍、法相宗の貞慶、天台宗の証真ら名だたる学僧とその門人たち、あるいはあ東大寺大勧進(東大寺復興事業の最高責任者)であった俊乗房重源とその弟子たちなど、およそ300名もの聴衆が集う大規模な討論会が行われた。これを「大原談義(大原問答)」という


p034.布教につとめていた法然が60代半ばになった頃、病にかかることが増えた。中でも1197年(建久8)に重い病にかかって一命を取り留めた際、兼実は「上人にもしものことがあっても、教えをまとめて示した書物がない。このままでは本願念仏の教えが途絶えてしまう」と危惧し、法然に浄土の法門を一書にまとめることを要請した。これを受けた法然は執筆にとりかかり、翌年の春に『選択本願念仏集』が完成する


以下、(梅原猛)


p093.日本最大の思想的革命家が法然であるとすると、日本最大の政治的革命家は織田信長であろう。織田信長は革命を成就するために、無数の人を殺した。二十世紀、世界最大の革命家と思われるレーニンもスターリンも、毛沢東も、いずれ劣らぬ殺人者であった。宗教改革者といわれるルターも宗教戦争によって多くの人々を犠牲にした。しかしこの日本最大の思想的革命家・法然は一人の人も殺していない。そして法然の教えによって宗教戦争が起こり多くの民衆が犠牲になったという話も聞かない。このような一人の人間も殺さない思想的革命家を持ったことは日本の誇りと言わねばならない


p098.父・時国の職は押領使であった。かつて押領使は田舎の警察署長のようなものと考えられていたが、とてもそのようなものではない。律令社会が崩壊に向かっていた当時、社会の秩序を破る武士即ち悪党があちこちに出現した。その悪党を取り締まるために、悪党の中の最も力の強い者を押領使に任じて悪党どもを取り締まらせようと中央政府は考えた。それが押領使である。それ故に押領使による犯罪は後を絶たず、今の「横領」という言葉はこの押領使の「押領」から出たという。時国もまた、悪党として血で血を洗う土地争いを続け、その挙げ句に人に憎まれて殺されたに違いない


p100.法然は父と母を極楽へ送りたかったのである。そのためには女人成仏・悪人成仏の教えを命を賭けて説かねばならないと思ったのであろう


p101.念仏の行をすれば阿弥陀仏のおかげで必ず極楽浄土に往生することが出来る。これが往相廻向である。しかし念仏の徒は極楽浄土に永遠に留まることは出来ない。仏教の教えは、自利利他の教えであるからである。利他の教えがある限り、極楽浄土に行った人間は、しばらく極楽浄土に留まり、また苦しむ人間を救うためにこの世に帰らねばならないのである。これを還相廻向という。法然は晩年、自分は一度目は釈迦の『無量寿経』を聞く聴衆の一人としてインドに生まれ、二度目は善導として中国に生まれ、三度目は法然として日本に生まれた、それで自分は極楽浄土から還ってきたのだと言ったという




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