カーマイン・ガロ「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション」日経BP

公開日: : 書評(書籍)



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タイトルと内容に齟齬がある悪い見本だ。半分くらいはアップル以外の話だったりする。プレゼンのほうに感銘を受けたからと、続けてこちらを読むと勝手が違った。しかし、内容は悪くない


この本を図書館で予約待ちの間に当のジョブズ氏が逝去した。直後に発売された伝記に、本の世界の注目が移っている。こちら、上下巻で4,000円の日本語版に比べて1,500円もしない原著Kindle版が半額以下と安すぎるので、iPhone/iPadアプリのKindleで初めて本を買って読んでみようかと思ってみたり。そういう意味でも英語がわかるかというのはお金の節約としても大事だ


マウスと出会うゼロックス社見学のシーンは印象的な絵だ。ミクロのところでよくわかっていても、それを統合して仕上げるのは至難の業。大企業になれば、知恵も知識も経験もあるのに、むしろ柵で融通が利かなくなる


冷却ファンの音の話も、したり。静かなのが好きだ。シンプルなのが好きだ。DJの話のように間違いがなく、iTunesの音楽のようにラクできるのが好きだ。IBMの攻勢に気の利いた混ぜっ返し広告をする意地悪さが好きだ。UPSの焦げ茶色の制服も大好きだ。日本だったらファナックの黄色、クロネコヤマトの親子ネコ、サンリオのキティが好きだ




p100.PARC側では、少なくともひとり、アデル・ゴールドバーグは根こそぎ持ってゆかれるおそれがあると考えていた。しかし、心配はいらないからジョブズたちのチームを案内しろと上司に命じられる。この意思決定は、ゼロックス社の歴史で有数のまずいものだった(アップルにとっては逆だが)。そしてジョブズらはポインティングデバイスを見せてもらう。マウスと呼ばれるもので、アイコンが並ぶスクリーンでカーソルを動かすことができる。PARC研究員のラリー・テスラーは当時をこう回想する。「1時間ほどデモを見ただけで、アップルのプログラマーたちは我々の技術も、また、それがどういう意味を持つのかも理解しました。何年もそれを見てきたゼロックスの重役たちよりも深く」歴史がつくれると思ったテスラーは、アップルに転職する。「ゼロックスはコピー機しか頭になく、コンピューターとはどういうものなのか、何ができるのかがわかっていなかった。だから、コンピューター業界最大の勝利を目前に大敗を喫したんだ。今、コンピューター業界の頂点に立っていてもおかしくなかったんだけどね」ビジョンの裏付けがなかったため、目の前の技術がどれほどの価値を持つのかが理解できなかったわけだ。情熱があってもビジョンがなければどうにもならない。両方がなければイノベーションは生まれないのだ


p112.2007年1月のマックワールド・エキスポで、ジョブズは、基調講演の終わりにこう語った。「大好きなアイスホッケー選手、ウェイン・グレツキーの言葉があるんだ。『パックがあった場所ではなく、パックが行く先へ滑るようにしている』、だ。アップルでは、みんながそうしようと心がけている。始まりの瞬間からそうだったし、今後もずっとだ」p133.魅力的なビジョンとミッションステートメントとは別物だ。ミッションステートメントというのは、普通、委員会形式でつくられたややこしく長いもので、キャビネットのどこかに埋もれるのが関の山だ。会社のミッションを一言一句、まちがえずに言える会社員には会ったことがない――ひとりもだ。覚えていられないものをつくって何の意味があるのか。ミッションステートメントなど捨ててしまおう。時間の無駄だ。その代わり、ビジョンを用意しよう。そのほうが、みんな、やる気になる。ビジョンとは、提供する製品やサービスで可能となるよりよい世界のイメージだ


p134.グーグルガイ、サーゲイ・ブリンとラリー・ペイジは、セコイアキャピタルでビジョンを尋ねられ、こう答えた。「1クリックで世界の情報へアクセス可能にする」(To provide access to the world’s information in one click)この分は、元の英語で10ワードしかない。この文に感銘したセコイアキャピタルの投資家たちはグーグル創設の資金を提供しただけでなく、その後、訪れるアントレプレナー(起業家)に会社のビジョンを10ワード以内で表現しろと求めるようになった


p153.因習を打破する人、昔からあるアイデアを見つけ出し、それを叩いてひっくり返す人をイコノクラストというが、ジョブズは典型的なイコノクラストである。そしてイコノクラストというのは、特に成功するイコノクラストというのは、「新しい体験を好む」とエモリー大学の有名な神経科学者、グレゴリー・バーンズは言う


p154.バーンズによると、いつもの環境で天啓が得られることはめったにない。そうであろうことは、スティーブ・ジョブズとアップル・オーチャードの話などからもわかる。アップルとコンピューターという関係がまったくないふたつの言葉をジョブズは結びつけた。この天啓をジョブズは「職場」環境――実家のガレージ――から1000キロあまりも離れた場所で得た


p168.あまり知られていないことだが、アップル初期のイノベーションはジョブズの精神的実験がインスピレーションとなったものが多い。例えば、アップルIIの電源には冷却ファンをつけるべきではないとジョブズは考えた。消費者は静かなほうを好むと思ったのだ。「こう思うようになったのは、彼が瞑想をよくするからだ。ほかのコンピューターに搭載されているファンはうるさくて、マシンのエレガンスを損なうと思ったのだ」


p189.ナイトクラブのDJは、音楽の再生にマックを使う人が多い。PCもいるが、マックノートが圧倒的に多い。DJというのはいかした人たちでマックはクールだからなのだと私は思っていた。しかし、なぜマックを使うのかとラスベガスのとあるナイトクラブで尋ねたところ、DJからはまったく違う答えが返ってきた。「クラッシュしないからですよ。コンピューターがフリーズしてベネチアンホテルとの契約が打ち切られたりしたらたまりませんからね」このDJは、クールに見られたくてマックを使っていたわけではなかった。信頼できるから使っていたのだ


p201.ユーザーを追いかけるのではなく、アップルは顧客に提案を行ったのだ。少しのお金を音楽に払ってくれるなら、高速で簡単、まちがいのないダウンロードに豊富なコンテンツ、そして、いい気分を提供すると、と


p211.アップルと同じようなイノベーションができないのはなぜだろうか。ほとんどの会社はふたつのものが欠けているからだ。卓越性に対するジョブスほどの熱意と、顧客体験に対するジョブズほどの熱意である。「ジョブズは、それこそピクセルレベルで細かくチェックしますからね」と、アップルの元マネージャー、コーデル・ラツラフも、ワイアード誌のインタビューに答えている


p251.ティム・クックはまた、思い上がりが複雑さを生むこと、また、成功し、もっと大きくなることだけが目的となった会社は尊大になると指摘した


p253.このサイトに私は驚いたし、この日、アップルのサイトを訪れた人は誰もが驚いたはずだと思う。もちろん、ページトップにはいつものとおりナビゲーションボタンが並んでいたがそれ以外はヨーク追悼一色となっていた。品格が感じられた。これも、絞り込みとシンプルさの力だと思う。普通の会社ならヨーク逝去のニュースをトップページかニュースセクションに追加するはずだが、アップルはそうしなかった。逆に、それまであったものを取り除いたのだ


p294.「コンピューターを買いに行ったとき、あるいはコンピューターを買った後、わからないことをジーニアスに聞けたらすばらしいと思いませんか?それを実現するのがアップルのジーニアスバーです。ここには誰かがいて、みなさんのどのような質問にもお答えします。担当者にわからない質問があっても大丈夫――(赤い電話を取りあげる)この直通ホットラインでクパチーノのアップル本社に電話をすれば、答えられる人が必ずいますからね」


p294.アップルストアにはレジ待ちの行列がない。レジがないからだ。店員は、全員が無線方式のクレジットカードリーダーを持っており、その場で決裁をしてくれる。レシートは電子メールで送られてくる。アップルは現金での買い物をあまり歓迎していない


p300.数日後、私はまたアップルストアへ行き、コンサルタントと会った。ドミニクと同じように、彼も歩合制ではないという。「当社製品をお客様に安心してお使いいただくのが私の仕事です。一生のおつきあいにしたいと思うのです」パーソナルショッパーと同じ質問をコンサルタントにぶつけてみたところ、基本的に同じ回答が返ってきた。アップルの人間は、全員、きちんとトレーニングされているからだ。メッセージがぶれることはない


p304.ロバート・スティーブンスは、1994年には事業を拡大しようとしたが広告にあてられるお金がなく、顧客サービスのエキスパートからアイデアを「いただく」ことにした。宅配便のUPSのドライバーが制服を着ていることをヒントに、修理担当者に制服を着せたのだ。社員はコンピューターギークを自認する者ばかり。だから、それらしい制服とした


p314.アップルもギーク・スクワッドもアブトも、顧客サービスという体験に関する教訓は同じだ。他の業界から優れた顧客サービスのアイデアを「盗んで」くればいい。競合他社から盗んでも短期的には成功できるかもしれないが、イノベーションのリーダーにはまずなれない。リーダーのコピーでしかないからだ。それはイノベーションと言わない。他の業界に存在する何かに目をつけ、それを応用して顧客の体験を大きく改善したとき、それをイノベーションと呼ぶ


p328.このときアップルは、IBMを歓迎するという全面広告をウォールストリートジャーナル紙とニューヨークタイムズ紙に出すという大胆な戦略に出た。そうすることで、パーソナルコンピューターを発明したのはアップルであるとIBM(および読者)に印象づけたのだ


p340.ジャック・ウェルチは、ゼネラル・エレクトリックのCEOに就任した後、会社について詳しく知るため、社内のさまざまな部門を訪問してまわった。その途中、プレゼンテーションがあまりにわかりにくかったので用語の意味がわからないと質問をしたところ、「学ぶのに25年もかかったことを5分で教えられるわけがないでしょう」と返ってきた。ウェルチによると、このマネージャーはほどなく会社を去ったそうだ


p342.どれほど忙しくても、記者からの問い合わせにはすばやく、かつ、直接に答えた。無視したことはないに等しい。広告代理店も使っていたが、問い合わせにはベニオフ自身が答えることが多かった(私も、ビジネス系の記事を書くにあたり何度も電子メールを出したが、いつもベニオフ自身から返事をもらったし、返事は24時間以内に来ることが多かった)。メディアを敵とみなすのではなく、マーケティング戦略の要として取り扱うというのがベニオフ流なのだ。「引用するコメントが欲しいとき、ジャーナリストの頭に私が浮かぶわけです。私なら、締め切りに間に合うタイミングでコメントが返ってきますからね」




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