岩田健太郎「1秒もムダに生きない」光文社新書

公開日: : 書評(書籍)



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正確で正直な人なんだなと思う。自分の考えを伝えるに際しても多くの留保をつけつつ、またあるいは人に嫌われそうなことも合目的的であるために断りを入れつつ言及したり


冒頭のところで「いつでも何かができるようにしておく」という話がでたときに、これはしまったかなと思った。しかし、落語やマンガや英語以外の語学の話が出始めてから、必ずしも本業一直線や合理的一辺倒でない話になってきて、少しずつその評価が変わってくる。最後の章で東日本大震災を引き合いに、人の命の儚さと、せこせこと時間を節約して拡大再生産することの意味に疑問を投げ、一人の人として本当にindispensableなものは何かを説くようになるのは、物語を読んでいるような鮮やかな展開を感じた


この人は独身なのかな。男の料理とか、アイロンがけなどのルーチンの家事の話が出てくる一方で家族的な雰囲気がないような気がする


ノリを大事にする。逡巡せずに動く。周りの眼を気にしない。空気を読まない。へばるまでやらない。停滞や挫折を許容し、待つ。だいぶできてるつもりと自画自賛するが、もっとやってみよう。しゃべり過ぎない、というのは全然できてないな自分




p6.ある人にフィットする「よいやり方」が、他の人にも普遍的にフィットするやり方かどうかは、誰にも分かりません。というわけで、こういう語り口の本は、だから信用できないことがほとんどなのです(もっとも、その勝間さんご自身がその後の大量の著書で「私のようにやれば成功できる」というロジックにはまりこんでしまったのは、不思議というほかありませんが)


p39.ある仕事をしたいと思っているときに仕事をし、その仕事はしたくないと思っているときは(できるだけ)しないのが、メンタル的には最良のやり方です。そして、揺れ動く気持ちに合わせて、「ノッている」仕事にフォーカスを絞ってまい進することで、楽しく効率的に仕事をするのです


p44.こういうときに一番やってはいけないのは「周りの眼を気にすること」。他者の意思、他者のまなざしに自らを規定させることです。上司の命令などで仕方がないときは仕方がないですが、そうでなくて、「周りの人からさぼっていると思われるんじゃないか」とか、「まじめな人と思われていたい」という「視線」、他者のまなざしを基準に仕事をするのは、よくありません。だいいち、周りの眼をいくら気にしても、仕事のパフォーマンスはよくなりません。仕事のパフォーマンスが悪くなれば、周りの視線もやはり厳しいままです。自分のパフォーマンスは自分で管理するのが基本だと、僕は思います。自分の「ノリ」に敏感でいて、それを基準に仕事のあり方が事後的に決定されていくほうが、うまくいく可能性が高いのです


p52.だから、研究成果は、「そこで切れてしまう」学会発表で終わらせず、必ず論文執筆まで持っていき、発表すべきだと僕は思うのです


p60.朝型人間、夜型人間、というタイプ分けがあります。僕は朝型人間ですが、夜型人間の人は夜遅くのほうがパフォーマンスがよいでしょうから、夜型にしておけばよいと思います。要するに、自分がもっとも気分よく仕事ができる生活パターンをフォローすることが大切なのです。「ノリのよい」状態をできるだけ醸成できるような生活のパターンを、自分自身で模索しないといけないのです。だから、他人の生活パターンを真似しても、意味がないと思います


p84.「やろうかな、やめようかな、どうしようかな」といつも逡巡している人は、メンタル的には「止まっている」人です。止まっている状態から動き出すのは、一般的には困難です。プールの中で、止まっている状態から動き出すのが難しいことは、前にも述べました。たくさんの力、意志を使わないと動けません。「とりあえず動く」という気楽なメンタリティーでいつでも動いていれば、そのことが、さらなる動きやすさを生むのです。「逡巡するメンタリティー」。こういうメンタリティーのときは、他者のまなざしが気になります。こんなことして笑われたりしないだろうか。こんなことして批判されたりしないだろうか。こういうメンタリティーのときは、他者によって自分が規定されてしまっているのですp100.「分かっていないふり」をするのです。「僕にはここのしきたりとかよく分かりませんけど、とにかくよくないことはよくないんです」と愚直に正論を述べ続けるわけです。相手は「まったくあいつは空気が読めない困ったやつだ」と苦々しく思うでしょうが、とにかく「正論」以外は通用せず、内部事情に通じた人なら通用するはずの「目くばせ」がまったく通じません。空気が読めないものですから、論理的にすじ論で議論を進めるより他なくなります。こうして内部の常識、外部の非常識を正していくわけです。「内部事情に通じていない、愚かなよそ者」を演じ続けることによって、内部にはびこる「非常識」を打破するのです


p101.意味のない書類仕事は、「仕事ができない人たち」のための仕事です。生産性のない書類をもてあそんでいれば、「仕事をしたふり」ができるからです


p108.基本的に、会議そのものがほとんど「時間の無駄」です。何十人も集まって話し合って合議がとれるわけがないのです。だから、一番有効なのは「できるだけ会議はしない」ことです。発言は、・どうしてもここで発言をしないと話が前に進まない、・ここで発言しておけば議事をこう進められる、というかなり強い確信があるとき以外は、「発言しない」が正解です。ツイッターやフェイスブックのところでも書きましたが、要するにアウトカムが出せない発言は、時間の無駄であることが多いのです


p123.与えられたトピックについては、「知っていることの10%」くらいだけをしゃべるようにしています。10%だけをしゃべる、と割り切ると、急いでしゃべる必要はなくなりますし、本当に大事な要諦に絞ることができるようになります。そして、質疑応答で問われたことにもほとんど即答できます。なにしろまだ90%もストックが余っていますから


p136.では、どうしてテレビを見なくなったのか、そして新聞を読まなくなったのかといいますと、理由はこれらマスメディアの「定型性」にあります。彼らは同じ口調でしか、ものを語らないのです。その口調の平坦さに、僕は飽きてきたというか、少しうんざりしたのです


p141.2010年9月、帝京大学病院で、耐性アシネトバクターという菌が検出されたときにも、耐性菌が出てけしからんという「一面的な報道」だけが紙面(社説含む)を占めて、「なぜ耐性菌が出たのか」「耐性菌が出るとはどういうことなのか」「今後どうすればよいのか」という根源的な議論をしている新聞は皆無でした。そもそも、耐性菌を持ち込まれて一番苦しんでいるのは、当の帝京大学病院であるはずなのに、その大学病院を加害者としてしか見ない、糾弾する対象としてしか考えられないその「想像力の欠如」は驚くべきことでした。想像力の欠如。これは日本のマスメディアに蔓延する、共通の、深刻な病理だと僕は思います。そして、新聞・テレビだけが情報源の人たち(主に日本の50代以上の人たち)の中には、そのような平坦な価値観だけが、価値のすべてだと信じ込まされている人たちも少なくないのです


p146.一般的に、「そんなことも知らないの?」と思われることはあっても、それが理由で笑われることはあっても、「嫌われる」ことはあまりありません。「知りません、教えてください」と教えを請う人を、人間が忌み嫌うことはあまりないからです。自らの無知をさらけだし、他者にソフトな優越感を提供して差し上げるのは、むしろ相手にとっても利益の大きなことではないでしょうか


p159.このあいまいさが、リアル・ワールドの特徴そのものと申し上げてもよろしいでしょう。だから、「分かっている」人は断定口調にはなりません。「うーん、どうだろう……」とためらい、沈黙し、口ごもります。この「ためらい」の態度こそが誠実な科学者の態度です。そして、テレビに出てくる人たちは、このようなためらいの態度を取りづらいのです


p166.さて、そんなふうに全力疾走で仕事をすると、帰宅したときはヘトヘトです。こういうときは、慌てて何かをがんばろうとしても、時間を削り取ろうとしてもうまくいきません。疲労しているときに「自分が一番やりたいこと」は、リラックスして安らかに気持ちになることです


p196.数年前から、スペイン語検定、フランス語検定、中国語検定を下から順番に受け、ときどきTOEFLなど英語の試験を受けています


p199.適度な休養は、労働の自己目的化を回避し、自身のパフォーマンスを最良にするためにはとても大切なことだと僕は思います。けれども、多くの日本人が、「自らのパフォーマンスを下げてでも」疲労し尽くすまでがんばってしまいます。アウトカムを出すことよりも、がんばって疲労し尽くすことが目的化しているからです。がんばることは大切ですが、がんばるのは手段に過ぎません。それを忘れてしまうのですね。手段と目的のとっちらかりです。ラグビーの元日本代表選手の平尾剛さんが、興味深い話をしていました。ラグビーのコーチの中には、練習で選手がへばるまで走らせるという人がいるんだそうです。そういうトレーニングはよろしくない、と平尾さんは言います。「へばるまで」走らせる練習をやっていると、「へばるまで」練習が終わらないのです。そうすると選手は次第に、無意識のうちに、「へばるような」体の使い方をするようになります。疲労しやすいように筋肉を動かし、走るからへばるのです。本来は一試合を走りまくってもへっちゃらな体を作るためにトレーニングをしているはずなのに、このようなトレーニングをしていると、むしろ一試合もたないうちに「へばってしまう」


p206.よく、若いまじめなドクターが、患者さんに一所懸命生活指導とか薬の説明とかしているのを観察します。僕は、「患者さんにはあんまり説明しないほうがいいよ」とアドバイスすることが多いです。研修医は総じて(その良心と誠実さゆえなのですが)、患者さんに「しゃべり過ぎ」です。患者さんはいろいろなことを教えてくれます


p208.外来では、いろいろなことを患者さんが教えてくれます。菓子職人の患者さんが2月の頭にやってくる。「バレンタインデー直前でお忙しいのではないですか」と僕が聞くと、患者さんは「こいつ何も知らないんだな」という顔で、「先生、バレンタインのチョコは9月にはもう作っているんですよ。だから今は特に忙しくありません」と教えてくれます。へえ、そうなんですか。僕はびっくりしてそう言います


p220.挫折体験を多くの人が許容できないのは、それが時間の無駄遣いだと勘違いするからです。しかし、未来における死が誰にも規定できない以上、病気で療養したり、受験に失敗して浪人生活を送ったり、うだつの上がらない生活をしていたとしても、それが「無駄」であるかどうかは誰にも分かりません。誰にも分からない以上、それを無駄と決めつける必要はないはずです


p227.停滞や挫折を許容し、待つこと。時間と居場所が停滞しているように見える人に与えられていること。そういうものを、未来の時間の不確定さを目の前にして、提供し続けたいなあ、と思うのです


p230.僕らは皆、代替可能な存在、ディスペンサブルな存在なのです。だから、「俺がいなけりゃ誰がやる」と、仕事に対してあまり強く気負うのは、よしたほうがよいと思います。あなたがいなくても、誰も困らない。僕が死んでも、何年か経てばみんな忘れてしまう。僕がいたときと同じように、毎日を淡々と暮らしていくのです。僕がいなくても、世の中は困らない。だから、僕が一番エネルギーと心を尽くすべきは、「僕がいないと困る人」、つまり家族に対してだと思います。会社と家族の2つを選ぶなら、僕なら後者を選びたい。僕がいなくなって一番悲しい人のために、貴重な時間をできるだけ費やしたい




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