鎌田浩毅「次に来る自然災害」PHP新書
20120702005354
今回の東日本大震災を解説し、そんな災害が発生するに至った前提としての日本の地理的地質的な特性について地震に限らず注意点を説明し、そして、それらを踏まえた現在と近い将来の可能性について示唆がなされている。いや、可能性というより科学的な必然として、まだまだこれから大地震も大噴火も起きるという予想に驚く
こういう災害に対して心理的な見栄は一切持ち合わせていないことには自信がある。思えば3.11も地震の数時間後に原発に対するアラートが出始めたあたりから気になりはじめ、その翌日午後あたりから、爆発が報道され、政府の記者会見が混乱し、NHKの報道が「念のため窓を開けるな」などと、おかしなことを言い始めたあたりから、気になって、夕方以降、車で西に逃げたことがあった。20:00くらいに総理大臣の記者会見を山梨県西部の双葉SAで聞くまで、ずっと中央道を西に逃げた。同じような人はあまり見なかったが、最近ようやく出てきた事故の最悪の想定を知ると、あのとき、東京から逃げるのもあながち間違いではなかったと思う。全然恥ずかしくもない
こういう本を読んだら、しっかりと実行しなけりゃいけないんだよな。今後の自然災害を避けるためにやることを考えるときに非常に参考になる一冊。とりあえず、これまでの備えに加えて、軍手、防止、常備薬、水、簡易トイレなどは、もっと真剣に備蓄をしようと思った
これを気に、昔やっていた山登りを再開する想像もしている。最近、意識的に登山用品やキャンプ用品をウインドウショッピングするようになった。昔と比べて進化しているグッズに驚いている。水を運ぶEVERNEWのポリタンクは、いまは折りたたみ可能なビニールバックのもあるし、ヘッドライトもみなLEDになってて、豆電球だった昔の面影はない。全体的に普及品の価格も安くなっている気がする。運動不足の反省もあり、また少し、山に行こうと思ったりして
それで、家庭用ガスカートリッジであるCB缶のバーナーとか、ほしいんだよな。ガソリンや灯油などの平時の扱いに困るものでなく。またEPIとかプリムスでもなく。悪環境での使用は想定しないので、安さと調達のしやすさで、これでいいと思う。ガスカートリッジってのは、物理的に容器が壊れない限りは使用期限もないらしいので、備蓄にはうってつけだと思って。いま狙ってるのはこれ
あと、地震はもとより、火山の噴火が近いうちに必ず発生するということは新しい認識だった。噴火の火山灰により、大気が冷たくなって農作物の不足などが起きるという古典的な被害のほか、エンジンやコンピュータを破壊してしまうということを知った。これはいざというときどうしたらいいんだろう。PCはゼロスピンドルのものならば問題がないようにも思うけど。あとiPadとかか
最後に、非常に興味深かったのは、いわゆる地球温暖化と二酸化炭素削減について。最近は大噴火がないから地球が温暖化しているのではないか、全体として寒くなる周期のなかでの一時的な温暖化に対して、それへの寄与度が定かでない二酸化炭素の削減を動く世界的な風潮に対して、言葉を選びながらも最大限の疑義を呈している。これ、ほんとにそう思うな
p5.地球科学の観点では、じつは東日本大震災はまだ終わっていません。終わるどころか、日本列島では「3.11」を契機に、大地が揺れ動く「巨大災害の世紀」が始まったのです。すなわち、地震と火山噴火の活動期に入り、今後さまざまな自然災害が予想されています
p6.今回の震源域のすぐ南側にあたる千葉県の房総沖での地震が心配されています。実際、この海域では1677年にM8.0の延宝房総沖地震が大津波をともなって発生し、400人を超える犠牲者が出ました。このときに生じた津波堆積物の調査から、太平洋岸に最大8メートルの高さの津波が押し寄せたこともわかっています
p8.20世紀以降に世界で発生したM9クラスの地震のあとには、ほとんど例外なく近傍の活火山が噴火しています
p11.地震や津波に関する知識を学んだ私は、東日本大震災ほどの巨大災害が起きてもうろたえることなく、落ち着いて行動することができました。これこそが、17世紀の英国の哲学者フランシス・ベーコンの説く「知識は力なり」にほかなりません
p23.東海地震、東南海地震、南海地震の3つの震源域はほぼ同時に活動しますが、時間差がある場合には、名古屋沖の東南海→静岡沖の東海→四国沖の南海という順番で起きる可能性がもっとも高いことがわかっています。さらに、過去の例では、冬に発生する確率が高いこと、南海トラフ沿いの巨大地震が起きる50年ほど前から日本列島の内陸で地震が頻繁に起きるようになること、といった事実も判明してきました
p26.南海トラフで起きる巨大地震の連動は、今回の東日本大震災が誘発するものではなく、まったく独立に起きるということです。というのは、南海トラフ沿いで起きた巨大地震の過去5回程度の記録を見ると、時間的な規則性が認められるからです。したがって、東日本大震災とは関係なしに、南海トラフ上のスケジュールに則って2030年代に起きる、と専門家は予想しているのです
p32.終戦後の日本はたまたま地震の静穏期と重なっていたことがわかります。じつは、この幸運もあって、経済的な高度成長が可能となったのです
p35.津波ほど知識の有無が生死を分ける自然現象はありません。東日本大震災の前、2010年2月末に起きたチリ大地震では、我が国の気象庁も大津波警報を発表し、189もの市町村で避難指示や避難勧告が出されました。対象人口は約168万人でしたが、実際に非難が確認された住民は6万3000人と、全体の4パーセントにも達しませんでした。避難勧告が出ていることを聞きながらも、避難しなかった人が大勢いたのです
p36.2004年12月末に起きたインドネシアのスマトラ島沖の巨大地震にともなって発生した大津波では、30万人近い人々が亡くなりました。このときには、津波で起きる現象を知らない人が、潮が引いた浜辺に打ち上げられた魚を捕りに、沖へ歩いてゆく姿がテレビニュースの映像で流されました。当時、これを見た私は恐ろしさに声をあげたのを覚えていますが、たいへん残念なことに東北地方太平洋沖地震でも、この教訓は十分には活かされませんでした
p40.ときには、非常に遠方で大地震が起きたため、揺れをまったく感じないのに、大きな津波が来ることがあります。たとえば、1960年に太平洋の向こう側で起きたチリ地震は、遠く日本まで大津波が襲来し、日本で死者・行方不明者142人という大災害をもたらしました
p41.津波が起きたときに、避難を呼びかけても耳を傾けない人が現実にいるのです。こうしたときには、津波の危険を察知した人が、自分についてくる人だけを引き連れて避難することを、私は強くすすめています。聞く耳をもたない人を説得しているあいだに、自分も津波に巻き込まれて犠牲者が増えることを防ぐ方法です。これは「率先避難者」と呼ばれていますが、このほうが、結果的にはより多くの人を救うことができるのです
p69.平日の大半を過ごす会社に何を備えておけばよいかを考えてみましょう。個人が用意すべきものと会社が備蓄すべきものとでは、内容が異なります。個人でできる対策としては、机の下などに歩きやすい靴を1足用意します。また、帽子と手袋(軍手)も備えてください。懐中電灯と携帯ラジオも準備したいものです。さらに、ペットボトル入りの水と食料も用意します。食料は、チョコレートやドライフルーツなど、カロリーが高く保存のきくものがよいでしょう
p91.火山灰の降灰は、現代の生活を支えるコンピュータを止めてしまうこともあります。コンピュータは火山灰のような細かいチリにたいへん弱いからです。静電気をもつ火山灰が吸気口から吸い込まれると、機械の内部に付着し、思わぬ誤作動を引き起こします。コンピュータの誤作動は、電気・水道などのライフラインを直撃することになりかねません
p91.人体への影響も懸念されています。火山灰は気管に入り、喘息などの呼吸器系の疾患を悪化させる可能性があるのです
p111.富士山は上から、新富士火山、古富士火山、小御岳火山、先小御岳火山という4層構造をもつ
p115.日本の火山学は世界でもトップレベルなので、1か月程度前なら噴火予知は十分に可能です
p119.これまで出版された本のなかには、天明の大飢饉は浅間山の噴火によって引き起こされたと記述したものがあります。しかし、同じ年に起きたアイスランドでの大噴火の概要がわかってくると、こちらのほうが日本を含む世界の気象の変化に影響を与えた可能性が高いと思われます。実際、ラキギガル火山が噴出したマグマの量は浅間山の30倍もあり、火山ガスも比較にならないほど大量に放出されました。したがって天明の大飢饉は、はるかかなたの大西洋にある火山の大噴火によって引き起こされたというべきなのです
p120.これまでの歴史をふりかえると、16世紀以前に見られた異常気象と大規模な噴火に、かなりの相関関係が確認できます。じつは、20世紀に入ってから世界の平均気温が上昇する傾向にあるのは、世紀の前半に大規模な噴火がほとんど起こらなかったからである、とも推測されています
p125.タンボラ火山の噴火翌年の1816年からヨーロッパと北アメリカで、これまでにはなかった気象災害が起きました。米国東部ニューイングランド地方では、ついに夏が来なかったため「夏のない年」と呼ばれています。6月になっても雪が降り、湖沼は凍っていました。さらに8月にもかかわらず山地には雪が残り、平地には霜が降りました。流氷の残るハドソン湾では船舶が動けなくなりました。この年は降水が極端に少なく、トウモロコシなどの穀類がほとんど収穫できませんでした。こうした異常気象は翌年まで続いたため、米国東部の農民たちは西部の開拓地へ移住していきました。これが米国の西部開拓の契機の一つとなったとも言われています。まさに巨大噴火は間接的に文明史を変えるのです。このころ、ヨーロッパ大陸でも冷夏が襲っていました。英国やスイスでは夏にもかかわらず冷たい雨が降りつづき、数百年間で最低の平均気温を記録しました。この数年のあいだ、ヨーロッパで見られる夕焼けは異常に赤い色をしており、英国のロマン主義の画家ターナーが風景画にこうした幻想的な夕焼けを描いています。この現象は、タンボラ火山から飛来したごく細流の火山灰と硫酸ミストが、空の青い色を吸収したため起きたものです。成層圏に撒き散らされた火山灰は地球を周回し、何年も地上に降りてきません。この間、太陽光が遮られるため異常低温が続き、深紅の夕焼けが見られたのです
p126.日本列島では、最近12万年のあいだ、タンボラ火山や鬼界カルデラ(噴出量54立方キロメートル)の噴火に匹敵するような大量のマグマが出た巨大噴火が、およそ7000年に1回ほどの頻度で起きています。最後に起きた巨大噴火は7300年前ですので、単純計算すると次の巨大噴火はいつ起きても不思議はないことになります
p133.避難勧告が出た際にまず障壁となるのは、「自分だけあたふた動いてはカッコ悪い」という心理的な見栄です。しかし、人間のこうした心理をいくら責め立てても何も問題は解決しません。これらの状況を回避できる方法が一つだけあります。その災害に関する正しい知識をもつことです。災害を前にして見栄を張ってしまった結末を知っていれば、愚かな行動をとらなくなります。17世紀、英国の哲学者フランシス・ベーコンが説いた「知は力なり」の格言は、災害を防ぐうえでも役立ちます。本書を読んだ方には、たとえ周囲の人がボーッとたたずんでいても、適切に行動していただきたいと思います
p140.偏西風の流れには、「東西流型」「南北流型」「ブロッキング型」の3つの型があります。東西に吹く東西流型と南北に吹く南北流型は、交互にくりかえされています。その周期は4-6週間ほどで、その間に気温が高かったり低かったりという変化が生じるのです。これが6週間を超えて同じ方向に吹き続けると、異常気象が起こります。たとえば、東西流型がずっと続くと南北の温度差が大きくなり、北側で異常低温、また南側では異常高温が出現しやすくなります
p150.長い視点では、現代は寒冷化に向かう途中の、短期的な地球温暖化が問題となっているわけです。たしかに18世紀に始まる産業革命以降、大気中に放出されつづけている二酸化炭素が、現在までの気温上昇の一因である可能性はあります。しかし、温暖化を引き起こした二酸化炭素の寄与は、研究者のあいだでも9割から1割までと意見が一致していません。さらに、2010年にIPCCが提出したデータの一部について、確実性などの点で疑義が寄せられました。IPCCの提言に対して、化学者のあいだで全面的な賛同が得られていないのが現実です。加えて、今後の数十年間の気候は寒冷化に向かいつつあると唱える地質学者も少なからずいます。実際、20世紀には、大規模な火山活動によって地球の平均気温が数度下がる現象が何回も観測されました。将来にわたって、いまの勢いで地球温暖化が進むかどうかは、必ずしも確定的ではないと私も考えています。自然には長短さまざまな周期の変動があります。こうした自然現象を、人類の生産活動が起こした短期的現象から区別しなければなりません。すなわち、地球温暖化問題は、「長尺の目」でとらえなければ、国際政治や経済にふりまわされる事態からいつまでも脱却できないのです。少なくとも専門家のコンセンサスが十分に得られていない現時点で、国際間での性急な取り決めを行うことは、将来の国益に反するのではないかと私は危惧しています
p153.たとえば、地面に太陽の光が当たって上にある空気を暖めると、空気が膨張し、軽くなって上昇します。すると地上近くでは空気が少なくなるため、この場所の気圧は低くなります。こうなると周囲の空気とのあいだに気圧の差が生まれ、空気を横方向に移動させようとする力が働きます。これが風を生むのです。その強さは気圧の差によって決まり、2カ所の気圧の差が大きいほど、このあいだにはより強い風が吹きます。この気圧の差が、気象予報でよく見かける「低気圧」と「高気圧」になるのです
p172.雷が鳴りはじめたら、私はすべての電気器具を電源コンセントから抜きます。スイッチを切るだけでは不十分で、コンセントから抜かなければなりません。テレビはアンテナのケーブルも抜けば、より安全です
p202.東日本大震災はまだ終わったわけではなく、「西日本大震災」が引き続いて起きる恐れがあります。すなわち東海地震、東南海地震、南海地震の三連動は2030年代に起きると地震学者たちは警告しており、私も今世紀の半ばまでに必ず起きると予測しています
p202.歴史をふりかえると、現在の日本列島は平安時代の中期と類似した「地殻の変動期」にあたります。9世紀の日本では、869年に東北沖で東日本大震災と同規模の貞観地震が起こり、その18年後の887年に東海、東南海、南海の三連動地震である仁和地震が発生しています。じつは9世紀には、あの富士山も大噴火を起こしています。864年に富士山の北西山麓で、大規模な割れ目噴火が起きました。貞観噴火と呼ばれる事件です。このときには長さ6キロメートルにわたる長大な割れ目ができ、その上に火口がたくさん生じました。ここから大量の溶岩が流出し、「富士の樹海」として有名な青木ヶ原樹海をつくったのです。大量の溶岩が流れ出た結果、富士山の北麓にあったセノウミという大きな湖が分断されました。これが富士五湖に数えられる西湖と精進湖の起源なのです。貞観噴火は富士山の歴史上もっとも大量のマグマを噴出した噴火でした。9世紀の地震や噴火の連鎖は、現在の状況ととてもよく似ていることがわかります
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