小林秀之・神田秀樹『「法と経済学」入門』弘文堂

公開日: : 最終更新日:2012/12/31 書評(書籍), デザイン



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かなり古くなってしまった。しかし、現在も価値を感じる。各項で独立したテーマを扱ってし、それぞれが短いので、切り分けて読みやすい


契約は守らなければならないのか。最近、コンプライアンスがどんどん肥大化してきて思う。契約違反は私法の問題であり、それは損害賠償などの古典的な解決方法と、新しいといっても強制履行や差し止めであり、それを越えて行為規範としてこれを守るというところも含めてコンプライアンスが言われるのであれば違うのではないかと思ったりする。それこそ経済活動の一環として契約したのであるのに、その経済の論理を越えて、その一現象である約束に振り回されるようなことがありはしないかと思う




p43.しかし、わが国の民法やその他の法律は、「契約は守らなければならない」という命題をそれほど絶対視していない。例えば、ある商品をAがBに来る契約を結んだが、AがCにその商品を売ってしまいBに対する契約を守らなかった場合、Aは不道徳な行為をしたとして刑罰を科せられることもないし、このような違約に備えて損害賠償額の予定があらかじめなされていない限り、懲罰として多額の賠償金を課せられることもない。AはBにその損害を賠償すればよいだけであり、しかもその賠償すべき損害の範囲は、必ずしBが蒙った損害全額ではなく、通常生ずべき損害または予見可能な損害(以下では、両方まとめて予見可能な損害と呼ぶ)だけである(民法415条・416条) 。BがじつはAから買った商品をDに3倍の値段で転売することになっていたとしても、Bは予見可能な損害しか請求できないから、Aがこのような転売を予見可能であったというような特別な事情でもないかぎり、BはDへの転売によって得られたであろう利益全部をAに賠償請求することがはできない。このように契約を守らず売る約束をした商品を他に売却するなどして履行しなかった場合にも、履行しなかった当事者は予見可能な損害だけを賠償すれば足りるのである。その意味では、法は契約を守らなかったことについて、それほど強い制裁を科そうとはしていない


p63.純粋な野生動物の種が減少してくると、国が天然記念物(数が特に少なくなった場合は特別天然記念物)に指定することによって、種の保存が図られることが多い。この天然記念物の指定という方法は、見方を変えれば、 一種の国の財産権を野生動物の上に作り出すことによって、野生動物の保護を図っているものと言える。すなわち、他の人々が天然記念物に指定された動物を捕獲できないということは、天然記念物に指定された動物の上に排他的な財産権が存在することと同様の法的効果を有するからである(この点では養殖されている野生動物と同じである)


p67.もし、工業所有権という財産権が存在しなかったならば、新しい社会に役立つアイデアを発明した人は、そのアイデアの発明までに刻苦勉励し多大な知的エネルギーを費やしたにもかかわらず、他人に知られればその相手を簡単に利用されてしまい自分には何らの法的保護も与えられないから、できるかぎり秘密にして他人に知られないようにするだろう。それでは、その有益な新しいアイデアが社会で広く役立てられることがないだけでなく、そのアイディアの存在が知られないので、繰り返し同一のアイデアを発明するために幾多の優秀な頭脳が浪費されることになるだろう。工業所有権制度が存在すれば、社会に役立つ画期的なアイデアを発明した人は、安んじて自己のアイデアを出願し世の中にそれを知らしめようとするだろう。そして工業所有権制度による保護は、新しい画期的なアイデアを発明した人が金銭的にも実施権の認許により報われる可能性を保障するので、新しいアイデアを生み出すこと奨励する機能を有する。工業所有権を認めるとしても、その権利が無限に存続するとすると、逆の弊害が生じる。すなわち、科学の進歩により誰もが当たり前のこととして知っている陳腐な知識になってしまった過去のアイデアに、工業所有権として排他的な権利を認めると、かえって新しいアイデアを生み出すことの障害になり、科学の進歩を妨げることになるだろう。工業所有権が期間制限のない財産権であったならば、現代の企業は、現在では中学生でも知っているようなエジソンなどの過去の発明家の発明を利用する対価として、その子孫に今なお多額の使用料を支払わなければならなくなってしまうのである


p68.例えば、Aがその所有するテレビを10万円でBに売る場合、Aにとってはテレビよりも10万円のほうが価値があり、Bにとっては、10万よりもテレビのほうが価値があるからこそ、そのような取引が成り立つのである。そして、右のようなテレビの移転を可能にするためには、まずAに、Aのみがテレビを自由に処分できるという排他的な権利すなわち物権を認めることが必要であり、つぎに、ABが合意すれば、細かな点までいちいち定めなくても、できるだけスムーズにテレビの移転がなされるような環境を用意してやるのが望ましい。前者が物権法の役割で、後者が契約法の役割にほかならない


p82.このように考えると、無過失責任が意味を持つような場合も十分ありうると言うことができる。例えば、危険物を支配・管理する者は、その危険物に関し――事故が生じたときの被害者よりも――詳しい知識を有するのが通常であるので、そのような者に事故防止手段開発へのインセンティヴを与える政策には一理ある。また、大規模な事業者について言えば、資金力等の面を考慮すると、その事業活動により生じうる事故につき、防止手段を開発すべきインセンティヴを与える政策にも一理ある




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