藤井厳喜「アングラマネー タックスヘイブンから見た世界経済入門」幻冬舎文庫
20140404175350
よく調べられている。歴史的なところを含めて客観的に。一朝一夕には書き上げられない。残念なのは索引がないところ。これがあればよく使える参考書になる。純粋に読み物として面白い。必ずしも利用者側を悪と見ていない。
自分は、タックスヘイブンは、国家間の競争に他ならないのであって、これを締め上げるために多数国家で協力しようなどというのは、談合、カルテルにほかならないと思っている。
p23.イタリア当局筋の話として、この2人は神奈川県と福岡県に住む60歳代と50歳代の男とされており、その内の1名は日本の財務省の職員であったという説も流布されている。
p42.2010年、ゼネラル・エレクトリック(GE)は140億ドルの利益を上げながら、アメリカで法人税を一切、払わなかった。この事実が大きな衝撃をアメリカ人に与えている。
p44.2008年の米国会計検査院報告によれば、タックスヘイブンを利用している83社の内、74社が、政府から多額の仕事を受注、ないし資金援助を受けていた。
p44.単に税金ばかりではなく、アメリカ大企業は、メディケアや社会保障など連邦政府に納める巨額の社会福祉費用の支払いを、タックスヘイブンを利用して回避できる。
p55.ブッシュ・ジュニア政権は、この海外利益の本国送還を「最後のチャンス」とする約束で、優遇措置を行ったのだが、その後も米大企業はダブルアイリッシュなどの移転価格操作をやめた様子はない。
p58.さて、デラウェア州で登記した企業は、この10年間で推定95億ドルの節税に成功している。しかしデラウェア州は、2011年には、この州に法人登記しているだけの企業からの税金や手数料で8億6,000万ドルの収入を得ているのだ。
p62.ワイオミング州もまた、企業に有利な法体系を備えている。ワイオミング州には、企業に情報開示を命ずるような法律が存在しないのである。そもそもこの州では、完全な匿名法人の登記が可能である。
p76.今やイギリスの主要産業として残っているのは、金融サービス用だけであると言っても過言ではない。
p81.表向きは、エルフ・システムが死んだことになっているが、未だに形を変えて生き延びているようである。フランスのミッテラン社会党政権も、このエルフ・システムを解体できなかった。フランスの対外援助担当大臣ジャン・マリー・ボッケルは、2008年1月、エルフ・システムに関して「腐敗した過去との決別には、時間がかかっている」と発言し、その直後に解任されている。2007年に、ニコラ・サルコジがフランス大統領に就任した直後に、最初に電話をした外国首脳は、オマール・ボンゴだったと言われている。
p84.現在、タックス・ジャスティス・ネットワークは、タックスヘイブンとアングラマネーに関する世界的な権威ある情報源の1つとなっている。
p91. シティ・オブ・ロンドンは、中世の自由都市の伝統を継ぐ政治的自治体である。グレーター・ロンドンから独立してるばかりではなく、実は、連合王国と呼ばれる、現在のイギリス国家とは別の政体を保持し続けているのである。
p93. シティ・オブ・ロンドンの誕生は、ローマ時代である。ローマ人が西暦50年頃にこの地にロンディニウム(Londinium)
という城壁都市を築いた。この要塞都市は、ローマ人がこの地域(ブリタニア南部)を支配する軍事拠点であった。
p94.ウィリアム征服王にしても、マグナ・カルタにしても、シティ・オブ・ロンドンがそれ以前から歴史的に保持していた自治権を再確認したまでである。その意味で、シティ・オブ・ロンドンの自治権は、国王の発行するチャーター(設立許可書)によって、生まれたものではない。
p94.シティ・オブ・ロンドンにはそもそもチャーターが存在しない。チャーターがないのだから、シティのイギリス国家との関係はいわば対等であり、少なくとも相互関係は曖昧なものにとどまる。これはタックスヘイブンとしてのシティの最大の強みである。
p99.現在もシティは、ロシア経済と深くリンクしている。規制の厳しいニューヨーク上場を嫌うロシア企業は、大体、シティで(IPO)を行っている。ユーロ・ドル市場の誕生は、純然たる違法行為から始まっている。
p100. 1945年8月、日本が降伏することにより、第二次世界大戦は終了する。イギリスは戦勝国ではあったが、これ以降、一挙に没落の坂を転がり落ちることになる。植民地は徐々に独立し、大英帝国は完全に崩壊するのである(ちなみに、大英帝国を崩壊させた最大の原因は、東アジアのイギリス領植民地を解放してしまった大日本帝国である)。
p106.このノンドミサイル(非永住者)のステイタスは、もともとはイギリスの植民地出身者を差別するために作られた法律区分であった。
p106.差別の構造であったものが、今は脱税の構造に転換してしまったのだ。なんとも皮肉なことではあるが、これもまた、大英帝国が残した遺産の1つと言えなくもない。イギリス社会の偽善や欺瞞がこんなところにもよく表れている。
p116.マカオは全チャイナから、多くの富裕層を集めているが、このカジノ自体が、マネーロンダリングの中心地となっている。マカオのカジノで儲けたことにすれば、不正蓄財したダーティーマネーのマネロンが、容易にできるからである。
p119.LIBORの不正操作問題は、英国中央銀行を含むシティ全体が関与していた共謀事件なのである。
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