河田惠昭「津波災害」岩波新書
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書評(書籍)
20140901232857
p15. 地震がやってくると目が届く限りの海面が瞬間的に盛り上がる。沿岸の浅い海域に近付いて高さが3から4メートルに高くなっても、見渡す限りの海面全体が盛り上がるから、「津波が来た」とは気づかないだろう。実際は、音もなく海面がスーッと上がるのである。このように、わが国にやってくる津波の大半は、海岸にやってくるまでその存在を目で確かめることは不可能であると言っても過言ではない。漢字で津波と書くので、海の波と同じく見えそうな気がするが、実は特殊な条件の場合しか津波は見えない。漢字の「津」は港の意味である。港のように防波堤で囲まれたところに津波が入ってくると港の中が津波の運んできた海水でいっぱいになり、岸壁をあふれて市街地に入ってきたり、防波堤が水没する。そのとき、津波は見えるのである。だから、「高い波」という表現より、「速い流れ」と考えた方が正しい。沖から津波がやってくるということは、「見渡す限りの海面が盛り上がり、速い流れで岸に向かってくる」という表現の方が妥当である。
p17.津波が護岸や堤防にぶつかった瞬間、津波の運動エネルギーがゼロになり(前進できなくなって水の運動が停止する)、これが瞬時に位置エネルギーに変換され、海面が盛り上がるのである。理論的には衝突前の1.5倍くらいに高くなる。
p28.わが国の沿岸部に建設された海岸護岸や堤防の高さは、一般にその海岸に30年(とくに重要な場合は50年)に一度くらいやってくる大きな波を対象に決定している。そして、一般に海岸護岸や堤防は、そこにやってくる津波を考慮して作られていない。
p59.海水浴場のような遠浅の海岸に津波がやってくると、津波は流れとしての特徴を遺憾なく発揮するようになる。海面が知らない間にスーッと盛り上がり、見渡すかぎりの海水が岸を目がけて流れてくる。海底から海面までの海水が岸を目がけて盛り上がりながらやってくるのである。
p127.津波ハザードマップ:紙ベースの図は、最終浸水深を示したものであって、その過程では高速のはん濫流が発生する地点がある。
p127.津波による被害は、深さよりも流れによって発生する場合が多いことを考えなければならない。しかも、実際には全壊家屋の残骸や家具類、自動車や漁船・船舶が、はん濫流と一緒に市街地を襲うことに注意する必要がある。
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